日本製スマホ復活へメーカー魂もう一度

増田 薫 氏
FREETEL(プラスワン・マーケティング)代表取締役

2017年2月号 BUSINESS [インタビュー]
聞き手 本誌ライター 山崎潤一郎

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増田 薫

増田 薫(ますだ かおる)

FREETEL(プラスワン・マーケティング)代表取締役

1972年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、ソースネクスト入社、レノボ日本法人コンシュマー事業部本部長、デル日本法人コンシュマー事業部部長モビリティ事業部本部長を経て、2012年プラスワンを設立。

―3年前は自宅マンション兼オフィスで資本金30万円、社員4人のスマートフォンメーカーが、今や資本金65億円、社員約250人に急成長できたのは?

増田 1機種でスタートしましたが、安価で良質なスマホをニーズに合わせてフルラインナップで揃えれば、支持を得られる確信がありました。アップルをはじめ多くのメーカーは発売機種を絞る傾向にある中、結局、似たような性能とデザインに収斂されて選ぶ余地がない。ユーザーの好みは百人百様、好みのスマホを自由に選びたいじゃないですか。

――小さな会社がオリジナルブランドのスマホを製造できるのが不思議です。

増田 製品を出すには半導体メーカーとしっかりと組み、設計・製造をサポートしてもらう必要があります。端末のコンセプトやデザインを決め、工場と連携しながら製品化します。無線端末なので総務省の技術基準にパスする必要がありますが、半導体メーカーはそのサポートもしてくれます。当初は1機種からのスタートでしたが、徐々にラインナップを広げ、今は1万円強の普及機から約5万円のハイエンド端末まで10種類以上を全方位で揃えることができました。

意気に感じた元ソニー技術者たち

――他の大手の携帯電話と比べても質感や性能で引けを取らない現行機種が短期間に開発できた秘密は何ですか。

増田 成長過程で品質向上のために二つの戦略を実行しました。一つは一流半導体メーカーとのコラボ実現です。ただ、起業したての小さな会社は相手にしてくれない。そこで日本進出を果たしていないスプレッドトラム・コミュニケーションズに乗り込んで話をつけました。シェアは大きくはありませんが確かな技術力があり、弊社と組めば、日本という先進国へ進出できる足がかりになるはずだと睨んだのです。狙いは的中して2人の技術者が半年以上常駐するなど、最大限の協力を得られました。そこで実績を積み、販売台数を伸ばすことで一流のMTKやクアルコムとのコラボを実現し、有機ELディスプレーなど最新技術のスマホをラインナップに加えられました。

――経験豊富な人材も必要では?

増田 二つめは「日本のメーカーでもういちど世界一になる」という僕らのビジョンに賛同し、日本の大手メーカーの元品質管理責任者が合流してくれたことです。彼が呼び水になって元ソニーの技術者が総勢20人ほど入社しました。中には深圳に常駐して製造現場で指揮を執る技術者もいます。僕らのような事業形態をJDM(Joint Design Manufacturing)と自称していますが、ファブレスやODMと異なり、企画・設計と品質管理は自社で実施し、生産は深圳工場の製造現場により深く関与して「日本品質」を実現する方式です。一般にODMの不良率は7~8%ですが、僕らは海外メーカーと比べ数分の一の不良率に抑えています。

――スマホ製造だけでなくドコモの回線を借りて通信事業にも進出しました。

増田 ウチの端末はすべて「SIMフリー」と呼ばれる大手キャリアの縛りのないスマホです。端末代金も含めたトータルの通信コストを抑えるには、安価な通信サービスが欠かせません。フェイスブックやLINEといったSNSのパケット代金が無料になるメニューも揃えて、端末からコンテンツに至るまで全方位でユーザーをサポートできる。これも1社で端末と通信を提供しているからです。

MVNO(仮想移動体通信)の契約者はまだ携帯電話全体の約3~4%ですが、逆に言えば市場に拡大余地がある。政府は家計に占める携帯料金の割合を減らそうとしており、総務省もMVNOを後押ししているので追い風です。

五輪を機に「メード・イン・東京」

――来年度は数百万台の販売見込みで、販売やサポートのコストは大丈夫?

増田 実は営業担当は5人だけ。営業力に頼って製品を売りさばくやり方が正しいとは思いません。ユーザーのニーズに合った高品質の製品を投入すれば少人数でも問題ない。もっと製品力を強化したいので社員250人の約半数が技術者です。サポートもすべて社内で約60人をあてていますが、理由があります。多くのメーカーはユーザーサポートを「コスト」と位置づけ、苦情センターを中国などに外注しています。しかし外注だと、タライ回しやノラクラ対応で顧客のイライラが募る。社内サポートなら、担当者に返品受け付けなどの決定権が与えられ、迅速に対応できるし、一件あたりのサポート時間も短くできます。確かに人件費は外注に比べ高くなりますが、ユーザーが何を欲しているかのアンテナにもなります。購入したお客様は長い間ご利用になるわけですから、しっかりと自社メンバーでサポートするのは当たり前です。

――海外進出も開始しました。

増田 メキシコを拠点に中南米各国に展開する大手通信会社アメリカ・モビルに僕らのスマホが採用されました。大手キャリアは高い品質を要求しますが、日本のメーカーは高く評価されます。この実績を持って東南アジア各国に展開すると同時に、米国の大手キャリアにも採用されるようチャレンジします。目標は2025年9月末までに華為やサムスン、アップルを抜いて端末販売台数で世界一になることです。

――「メード・イン・TOKYO」ブランドを世界に知らしめたいとか。

増田 東京五輪でTOKYOのイメージやブランド力は上がりますよね。東京に僕らの工場をつくり、羽田空港から世界へ「メード・イン・TOKYO」のスマホを出荷したい。東京の会社ですから、目の届く場所で、しっかりと物を作ることが重要だと思います。中国は、土地代も人件費も高騰していますから、遠からず「世界の工場」の座を失う。東京に僕らの工場があれば、製造現場と技術開発が密着できます。2年後の実現をめざしているので、小池都知事にも応援してもらえたら嬉しい。世界に出ていくには資金と信用力が不可欠です。次のステップとして株式公開も考えています。

   

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