森金融庁がコンコルディア社長人事に憤り

2017年3月号 BUSINESS

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「日銀のマイナス金利政策で地銀経営は厳しくなるばかり。もはやビジネス経験がない大蔵省OBに銀行経営が務まる時代ではない」――。金融界の「常識」を覆す、元国税庁長官から元国税庁長官への「禅譲」人事が物議を醸している。資金量で地銀トップを誇る銀行持株会社「コンコルディア・フィナンシャルグループ」(傘下に横浜、東日本両銀行)の社長交代だ。

かつて地銀・第二地銀105行の頭取の座は、旧大蔵省OBの有力な天下り先だったが、この10年の金融環境の激変により、天下り先は減りつづけ、公的資金注入行とその予備軍を除くと、コンコルディアFG、西日本シティ銀行、東日本銀行の3行のみだ。旧大蔵事務次官OBの「指定席」とされた日本政策投資銀行の社長の座さえも、一昨年に「生え抜き」に奪われた。

こうした中、今なお大蔵省OBが社長、副社長として君臨するのがコンコルディアFGだ。社長の寺澤辰麿氏(70)は11年6月に横浜銀行頭取に就き、昨年4月にFGの社長に転じたが、今年6月の株主総会後にFGを退き、石井道遠FG副社長兼東日本銀行頭取(65)に後継指名すると見られる。

寺澤氏と石井氏は旧大蔵省の先輩後輩(共に元国税庁長官)。「実は親元の財務省は、FG社長に財務次官経験者を送り込もうとしていたが、コンコルディアの生みの親を自認する寺澤氏がウンと言わず、石井氏への禅譲が既定路線になっています」と関係者は漏らす。

財務省の介入は遮断できても、大蔵省のOBからOBへの社長交代は、昨今の金融界のガバナンス強化に逆行する。「銀行ガバナンス改革」を主導する森信親金融庁長官は「まず執行側が複数の社長を提示し、その中から社外取締役が後継者を選ぶのが、まともなトップ交代」と、常日頃から指摘し、「天下りの社長が、天下りの副社長に譲るなんて論外」と「禅譲」路線に憤りを漏らしているようだ。

そもそもコンコルディアの誕生は、東日本銀行の先行きを懸念した畑中龍太郎金融庁長官(当時)が横浜銀行に統合を働きかけ、寺澤氏が後輩の石井氏に救いの手を差し伸べた「仲間内の救済劇」だった。

昨年4月に横浜銀行頭取の座をプロパーの川村健一氏(57)に譲った寺澤氏としては「近く石井氏が東日本銀行頭取の座をプロパーに譲った後、石井氏をFG社長に後継指名し、自らの影響力を残したいのだろう」(大蔵省OB)。

ところが、次期社長に目される石井氏は「国税畑で金融をほとんど知らないうえ、寺澤氏以上に尊大なナルシスト。役所の後輩で彼を慕う人はいない」(金融庁関係者)。コンコルディアの社長ポストを守りたい大蔵省OBの一部に石井氏を推す向きもあるが、「銀行実務を熟知した若手のプロパーにバトンを渡すべきだ」との声が圧倒的だ。

もはや「内輪の論理」で石井氏を社長に据えることは難しいのではないか。森長官の手腕を高く買う麻生太郎財務相のもとで「財務省は親、金融庁は子」という主従関係は崩れつつある。コンコルディア社長人事は見方を変えれば「財務省vs金融庁」の抗争でもある。首相官邸の菅義偉官房長官の覚えがめでたい森氏の「剛腕」をもってすれば、大蔵省OBの「聖域」を切り崩せるかもしれない。

   

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