高市ずっこけ 「マイナンバーカード」 普及率8・4%

盛り沢山の「利活用ロードマップ」は空回り。サービスの目玉「マイナポータル」も再延期。

2017年6月号 BUSINESS

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マイナンバー個人番号カードの交付手続きを行う高市早苗総務相

Photo:Jiji Press

国民一人ひとりに割り当てた12桁の番号を使って税や社会保障などの個人情報を結びつけるマイナンバーカードの普及作戦が空回りしている。準備不足のため、個人向けサイト「マイナポータル」の本格運用も今秋に再延期された。政府はカードの利活用を促進しようと躍起だが、前途多難だ。

2016年1月に導入されたマイナンバー制度は、安倍晋三政権が進める「税と社会保障の一体改革」の基盤とされる。所得や年金などの個人情報を一括管理して行政事務を効率化するとともに、行政手続きの簡素化によって国民の利便性を向上することが目的である。

政府はマイナンバーが記載されている番号通知カードをほぼ全国民に送付したが、それに代わって国民に取得を呼び掛けているのが、番号や顔写真付きのプラスチック製の「マイナンバーカード」だ。公的な身分証明書にも使えるとしている。

しかし、総務省の3月時点の集計によると、対象の約1億2806万人のうち、マイナンバーカードの交付枚数は約1071万枚強にとどまり、交付率8・4%と低い。「17年度までに4千万枚交付」の政府目標達成は絶望的である。

診察券やマイル加算まで

マイナンバー制度の特命担当相を昨夏から兼務する高市早苗総務相は、「まだまだ不十分。さらなる普及と利活用を図っていくために、国民に便利を実感していただくことが必要です」と反省する。高市氏の地元奈良県は9・8%で全国平均を上回るが、地元ですら普及しない現状に苦慮している様子だ。

そこで総務省が今春策定したのがマイナンバー利活用推進ロードマップだ。「利便性を高める取り組みを分かり易く発信する。責任を持てるロードマップを作らせていただいた」と高市氏。

ただ、ロードマップは盛りだくさんだが、本当に実行できるのか、不安な点が少なくない。

例えば、住民票や戸籍などの証明書をコンビニエンスストアで交付できる自治体を増やし、「19年度末に対象人口1億人超を目標」と宣言した。

公的個人認証サービスの民間開放として、マイナンバーをインターネットバンキングや医療・健康情報へのアクセスの認証手段とするとし、「18年以降、実用化を図る」と自信たっぷりに明記している。

政府はマイナンバーのICチップを民間開放して社員証として利用したり、クレジットカード、運転免許証、診察券と一体化したり、航空会社のマイル加算にも活用する構想を描く。 

マイナンバーの本人確認機能をスマートフォンにダウンロードして使う実証実験を行い、人気の米アップルの「iPhone(アイフォーン)」にも対応できるような準備も進めている。

証明機能をスマホに搭載できれば、カードを持ち歩かなくても、イベント会場や東京五輪・パラリンピックなどで本人確認に利用できそうだと政府は話す。カジノ施設への入場管理に活用する案もあるから驚きだ。

兵庫県姫路市や新潟県三条市などではすでにマイナンバーカードを図書館利用カードとして利用し始めたが、政府はロードマップに沿い、様々な官民分野で利活用を急拡大したい考え。ただ、ロードマップはカード普及を目指すゆえの強引な「官僚作文」と読めなくもない。

そもそも、マイナンバー制度は躓きの連続である。通知カードの配達遅延などに加え、基礎年金番号との連結開始も1年延期された。マイナポータル開始時期を巡るドタバタも続く。

マイナポータルとは、マイナンバーカードの電子証明書を使って行政手続きのオンライン申請などができる個人向けサイト。自分に関するマイナンバーを含む個人情報がいつ誰によってどのような目的でアクセスされたかを自宅のパソコンなどから確認できるという。確定申告などの税や年金、介護の情報を行政から自動的に受け取り、国民年金や国民健康保険料の電子決済も可能で、政府は「ワンストップでサービス」と強調する。

マイナポータルは、ICチップに搭載される公的個人認証を用いたログイン方式を採用しているため、マイナンバーカードがなければ利用できない仕組みがミソだ。

総務省は17年1月からマイナポータルの運用を開始する予定だったが、同3月に延期し、運用に万全を期すために、さらに今秋に再延期した。

高市氏は「私自身がユーザー目線から再検討してみた」と弁明し、「操作マニュアルを読まなくても直感的に理解できる説明画面を用意する取組みを事務方に指示した」と述べた。

政府はスマホでの利用開始時期も今秋に揃える考えだが、今度こそ、マイナポータルを導入できるかどうか。またまた先送りしたり、強行してトラブルでずっこけたりすれば「狼大臣」と言われかねない。

カード情報管理への不安

マイナンバー法では、他人の個人番号を不正に閲覧・取得する行為を禁じ、違反者に3年以下の懲役または150万円以下の罰金を科すと定める。

マイナンバーはいずれ銀行口座など金融資産分野に幅広く付番する方向で、利用範囲が拡大すればするほど、流出リスクに加え、不正に取得したなりすましによる詐欺被害が増えそうだ。3年以下の懲役などの抑止効果では限界も指摘される。

一方、政府にとって別の課題が、マイナンバーカードの管理システムを運営する「地方公共団体情報システム機構」(J―LIS)の監督強化策である。

マイナンバーカードの交付は市区町村の事務だが、システムの運営は地方自治体から委託された機構が行う。ところが、機構はシステム障害を多発させた前歴があり、頼りない組織という悪評が絶えない。

総務省は当初、「機構は地方自治体が共同で設立しており、総務省に権限はない」としていたが、ガバナンスへの危機感から方針を転換して国の関与を強めた。西尾勝理事長を交代させ、みずほ銀行のシステム担当だった吉本和彦氏を4月から理事長に起用して立て直しを図る。

しかし、体制強化はまだ途上である。総務省の指揮でJ―LISへの監督の実効性が高まり、マイナンバーカードの普及と利活用に弾みが付けば良いが、先行きは不透明だ。高市氏がいくら焦っても、ロードマップは「絵に描いた餅」に終わりそうな悪い予感が漂っている。

   

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