2017年6月号 連載
「官僚修辞学」の粋? 経産省から原賠・廃炉機構に派遣され、東電の取締役を兼務する西山圭太氏
政府(原賠・廃炉機構)と東電HDが、東電の新しい再建計画「新々・総特」なるものを発表した。70頁もあり、まわりくどく、わけが分からないように書く「官僚修辞学」の粋(すい)である。平たく言えば、3年前に「新・総特」が想定した福島原発事故費用は総額11兆円だった。それが22兆円に倍増し、東電の負担も16兆円に膨張したので、向こう30年間、東電は毎年5千億円の賠償・廃炉費用を払わなければならない。加えて東電は、今後10年に渡り、毎年2千億円の経常利益を稼ぎ出し、10年後以降は4500億円の純利益をめざせと書いてある。
「新々・総特」を記者発表する東電の廣瀬直己社長(左、5月11日、撮影/宮嶋巌)
「福島への責任」を果たすために存続を許された東電は、がむしゃらに稼がねばならず、収益の柱は柏崎刈羽の再稼働と他電力との事業再編・統合による企業価値の向上だ。送配電については「2020年初頭には共同事業体を設立し、新たな枠組みの形成を図る」、原発については「国のエネルギー政策を踏まえ、立地自治体の理解を得つつ、協力の得られるパートナーを募り、20年頃を目途に協力の基本的枠組みを整えていく」とのご託宣だが、それがどんな利益をもたらすのか? 事業計画の名に値しない机上の空論だ。
「柏崎・刈羽」再稼働に立ちはだかる新潟県の技術委員会(撮影/宮嶋巌)
新々・総特で唯一キャッシュインパクトがある記述は、柏崎刈羽が「19年以降」再稼働する場合の試算であり、仮に7基全部が稼働した場合、経常利益が5千億円を突破し、「福島ミッション」を果たしながら、東電が立ち直るバラ色の筋書きになっている。しかし、新潟県知事が「再稼働の議論を始めるには3、4年かかる」と明言しており、柏崎刈羽がカネのなる木に化けるとは限らない。そもそも7基が集中立地する世界最大の柏崎刈羽をフル稼働させ、東電に儲けさせたい国民がいるだろうか。福島への責任を逆手に取った「官僚の作文」に騙されてはならない。