安倍首相の側近と会長が会食し、献金をするマルチ販売会社。さすれば重い咎めなしか。
2017年9月号 BUSINESS
東京にあるジャパンライフの本社
写真/ジャパンライフのホームページから
「これは結構有名人ですよ。あの山口さんがまだ生きていたのかと思ってさっき写真見たぐらい。この人はその時代から結構有名な方で、マルチという言葉が始まった最初の頃から、もう出ていた方だったと思います」
4月11日の参議院財政金融委員会。共産党の大門実紀史から、お年寄りから不当にお金を吸い上げている企業に厳正に対処するよう求められた財務相兼金融担当相の麻生太郎は、場が盛り上がればそれで良いかのごとくいつもの麻生節で、問題の張本人をなつかしんでみせた。
大門が厳正な対処を求めたのは健康器具販売会社「ジャパンライフ」のこと。麻生がなつかしそうに「あの山口さん」と言ったのは、同社の創業会長の山口隆祥のことだ。
一方、本誌8月号が、消費者庁が「ジャパンライフ」に対し、天下りを受け入れてもらう代わりに行政処分で手心を加えたのではないかという疑惑を取り上げたのは、何も「なつかしむ」ためではない。山口の「過去」から推察すると、今起きている問題の闇は、想像以上に深いと思えてならないからだ。
山口隆祥会長
ジャパンライフは昨年12月、今年3月と相次いで、消費者庁から預託法や特定商取引法に違反すると認定され、業務停止命令を受けた。同社は磁気治療器を高齢の女性客に販売すると、ただちにそれを会社に預託させ、そのままレンタルに回すことで6%もの配当を支払うと約束していた。
ところが、ジャパンライフの磁気治療器の保有数は、同社が預託を受けたとする商品の数より大幅に少なく、その事実を顧客に告げていない。すなわち違法な現物まがい商法だった。
また、経営を実際よりよく見せるために、負債を少なく記した財務書類を顧客に提示していたことも判明。マルチ特有の仕組みを導入しながら、実際には「配当がもらえない」との苦情が消費者庁に寄せられていた。
一方、問題は同社を処分した消費者庁側にもあった。2015年夏、消費者庁のある幹部がジャパンライフに天下りしたが、その元幹部は、前年に同社の調査に入った後、自ら「天下り要求」をしたと内閣府に認定され、国家公務員法違反の疑いが持たれているのだ。
それだけではない。昨年から今年にかけてジャパンライフに出た計1年間の業務停止命令は、実はこの天下りを受け入れた見返りに手心を加えた、「大甘処分」だった疑いも浮上している。
一連の経緯を振り返ると、監督官庁である消費者庁は、弱みを握られ、意のままに操られているようにみえる。そして、そんな芸当ができる人間は、と考えると一人の凄腕のキーマンが浮かび上がってくる。それがジャパンライフ会長の山口なのだ。
山口とはいったいどんな人物なのか。山口はまず1975年、“三大マルチ”と呼ばれた会社の社長として注目された。
当時、本人が明かした経歴などによると、群馬県伊勢崎市の出身で、高校卒業後に富士重工業の工員になるが、わずか2年で脱サラし、やがて自分の会社を設立する。「ジェッカー・フランチャイズ・チェーン」だ。
山口は商品の売り上げからマージンを取り、末端の会員が払う加盟料を吸い上げることで、チェーン本部に札束が積み上がる仕組みを作り上げた。いわゆる「マルチまがい商法」だ。
会員の中には、空気清浄機など大量の粗悪商品を押し付けられる一方、本部の営業指導を受けられず、転売できずに大量の在庫を抱え込む人たちが続出。やがて大きな損失を出して行き詰まり、自殺者まで出た。
ジェッカー社には大々的な批判が巻き起こり、公正取引委員会が「ネズミ講式マルチ商法」に当たるとして行政処分すると、同社は76年に銀行取引が中止されて倒産。やがて山口は「行方不明」と報じられた。
ところが、山口はしたたかだった。ジェッカー社倒産前年の75年、磁気マットレスや羽毛ふとんを販売する「ジャパンライフ」を立ち上げていたのだ。
同社は瞬く間に急成長。80年の時点で8億円だった売上高は、わずか3年後の83年には約50倍の450億円に達した。だが、あまりの急成長ぶりが、今度は国税庁の目に留まり、82年に査察が入る。81~82年に計6億円の所得を隠していたことが発覚。山口は翌83年、法人税法違反で告発された。
そして85年、ジャパンライフのマルチまがい商法は国会で度重なる追及を受け、山口氏は会長を辞任。同社はマルチまがい商法の温床となる委託販売をやめる、と発表したのだった。
当時、急成長のウラで取りざたされていたのが政官界との太いパイプだった。83年、山口は寝具の営業マンから吸い上げた会費をもとに、「健康産業政治連盟」を設立。そこを通じて年1~2億円以上を与野党の大物政治家らにばら撒いた。
「献金したのは、同郷の群馬県出身の自民党・中曽根康弘や石原慎太郎、山口敏夫らに加え、社会党の山口鶴男や社民連の阿部昭吾ら。自社のパーティーにそれらの政治家を呼び、会員向けの広告塔にしていた」とベテラン政治記者は語る。
官界にも果敢に手を伸ばした。山口は83年にいったん社長からヒラの取締役に降格したが、後任に据えたのはなんと、京都府警本部長や中部管区警察局長を歴任した大物警察官僚の相川孝だった。相川はネズミ講を取り締まる警察庁保安課長を経験していたからなお驚きだった。
もうおわかりだろう。同社が、監督・調査をする消費者庁元幹部を取り込んだ今回の手口は、「昔のまんま」なのだ。監督官庁のOBを自社に取り込むことで、後輩の官僚が手を出しにくくなる、「役所の論理」を知り尽くしているのだ。
一方、ジャパンライフは政治家への年貢は相変わらず欠かしていない。首相である安倍晋三のお友達の一人、加計学園問題でもキーマンだった元文科相の下村博文が支部長を務める自民党東京第11選挙区支部に2014年、10万円を献金していた。
4月5日の委員会でこの問題を取り上げた大門は、同社のお中元リストに安倍らの名前があるとも追及。11日には今回の内閣改造で厚生労働相に就いた加藤勝信が、消費者庁の1回目の処分が出た直後の今年1月、山口と会食したことも暴露した。
消息筋によると、消費者庁内ではジャパンライフには「もはや手心を加える必要なし」として何らかの追加措置をしようとの声が出ているが、官邸はこれに待ったをかけているという。
同社をヘタに追及すれば、森友・加計学園問題の二の舞いになり、官邸に近い政治家に、新たな疑惑が噴出しかねないからだという。(敬称略)