2018年4月号 連載 [いまここにある毒]
物事には始まりがあれば、終わりもある。水のかたち。そんなタイトルの映画がアカデミー賞に輝いた。言葉を失った孤独な女が「美女と野獣」のように半魚人に恋するファンタジーで、ふわりと水中を浮遊する場面が美しい。が、密かにアテツケの毒が仕込まれている。唖のヒロインといい、異形の半魚人(神?)といい、隣室のゲイの画家も、同僚の黒人の掃除婦も、マイノリティーの弱者ばかりなのだ。時代は1960年代の冷戦期、ソ連スパイもいるし、監督までメキシコ人だから、思い浮かぶのはLGBTも有色人種も嫌いで、ロシアゲートに苛立つトランプだろう。いかにも手の込んだ諧謔だ。電撃警棒を振り回すパワハラ、セクハラの権化の悪役がガリガリ齧るペレットに、好色と権力欲に駆られた米大統領が重なる。監督も授賞式で自らを「移民」と語った。水にかたちがあるなら、分け隔てなく流れこみ、すべてを包む ………
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