技術陣なき「自社開発」の2号機は、1号機の海外メーカーの進化形と瓜二つでトラブル。
2019年2月号 BUSINESS
外形がよく似ているポケトーク(右)とTravis Touch
明石家さんまの笑えるテレビCMでおなじみの携帯型翻訳機「ポケトーク」について、1号機が電波法と電気通信事業法にで定められた「技適」(技術基準適合認定)違反であることを本誌12月号は暴いた。総務省令で定められた「T」認証を未取得のまま約8万台を出荷していたのだ。その記事の最後で、さんまが現在宣伝している2号機「ポケトークW」についても「鬼が出るか、蛇がでるか」と追及を予告した。案の定、鬼が飛びだし、蛇が現れたのである。
それを詳述する前に、初代ポケトークのてん末を書いておこう。本誌質問状や総務省の技適担当からの照会に、ポケトークの販売元ソースネクスト(東証1部)は慌てて「T」認証を取得、本誌12月号の発売日だった11月20日に「初代『POCKETALK(ポケトーク)』技術基準適合認定表示に関するアップデータ配信開始のお知らせ」というリリースを公開した。
技適違反は法的にはメーカーでなくユーザーが処罰対象となる。端末を回収しないと8万人が違法ユーザーになってしまうのだ。初代ポケトークでは外装裏面に取得済みの技適「R」認証の認定番号が印字されており、本来ならここに今回取得した「T」認証の認定番号を併記する必要がある。だが、ソースネクストにとって幸いなことに、総務省は10年に技適に関する省令を改正し、認定番号の「電磁的表示」を可能とするよう規制緩和していたため回収を免れた。
代わりにユーザーのもとに「重要なお知らせ」の葉書が届き、ソフトをアップデートすれば取得した認定番号を液晶画面に電磁的表示できるようになった。これで回収の手間とコストが省け、ソースネクストにとっては「やれやれ」だろうが甘い。17年12月の発売開始以来、1年弱にわたって約8万台の未認可違法端末を出荷し続けた失態から知らぬ顔で逃げようとする隠蔽体質をとことん暴こう。
さて、18年9月発売の2号機「ポケトークW」だ。翻訳対応言語の追加など後継機として機能向上がウリだが、1号機のメーカーと重大なトラブルを抱えていることが判明した。
1号機は、オランダのベンチャー企業トラヴィスのTravis Oneをライセンス契約した上で、筐体にソースネクストのロゴを印字するなど、日本向け仕様にした製品だった。Travis Oneは、17年のモバイル機器の展示会MWCへの出展や米国のクラウドファンディング「インディゴーゴー」において達成率748%、額にして2億円以上の出資を集めたことで話題になった翻訳機だ。そこにソースネクストが目をつけ、日本でのライセンス販売にこぎつけたのだ。
これに対し2号機は、ソースネクストの「自社開発」を高らかに謳い、テレビCMで大々的に売り出したが、自社開発どころか、トラヴィスの技術をパクった疑いのある製品であることが本誌の取材で判明した。
初代が発売されたばかりの17年12月、トラヴィスとソースネクストは、Travis Touchと呼ばれる進化形翻訳機のライセンス契約について交渉を開始した。交渉過程でトラヴィスは、ソースネクストに対しTravis Touchの仕様書などの情報を開示した。18年の第1四半期中にTravis Touchは発売可能な体制が整っていたのだが、ソースネクスト側からの「待った」の要請があり延期したという。
だが、延々と引き伸ばされた挙げ句、トラヴィスに何の説明もないまま、9月に突如「自社開発」と銘打ったポケトークWが発売されたのだ。Travis Touchも9月に発売したが、半年のリードを失ったトラヴィスの創業者の一人、ニック・ヤップ氏は怒りのやり場がない。
しかもTravis TouchとポケトークWを比較すると、端末の形状、タッチパネル式の2.4インチ液晶画面など瓜二つで、どこが「自社開発」なのか。関係者によれば、ソースネクストは製品を開発できる技術陣がほとんどいない業者だ。仕様書をパクって中国のODMメーカーにつくらせたのではないか。
来日したヤップ氏は、ポケトーク2号機発売直後の9月末から「この問題について日本の弁護士を介して折衝中」と明かす。
驚いたことに、前述の1号機ソフトのアップデート作業は、トラヴィスにやらせたそうだ。本誌が技適違反を指摘した後、ソースネクストはトラヴィスに対し技適対応のアップデート作業を依頼、「対応が遅れると株価が下落するので、アップデート作業を急げ!」と矢のような催促だったらしい。
厚顔もここまでくると呆れるが、ヤップ氏は「彼らはマーケティングカンパニーであって技術力がない。初代は我々の製品なので大人の対応をした」と苦笑する。技術力のなさは、「自社開発」のポケトーク2号機にも表れているという。
初代と比較して翻訳品質が向上していないばかりか、Travis Touchに搭載されているモバイルWi‐Fiルーターの機能が2号機では省かれている。2号機をトラヴィスのライセンス製品と勘違いしている人が相当数いるそうで、「日本のメディアからTravis Touchより機能が落ちているのはなぜかという問い合わせもある。とても迷惑な話だが」とヤップ氏はこぼす。
ヤップ氏は「消耗するので法廷闘争には持ち込みたくない。話し合いで解決できればベスト」と大人の対応を模索しているが、20年末までの目標販売台数を100万台とぶち上げたソースネクストが応じるかどうか。
12月20日、小池百合子都知事は、桜田義孝五輪担当相とともに、都内で開かれた「多言語対応・ICT化推進フォーラム」に出席し、展示されたポケトークなどの翻訳機を視察した。19年のラグビー・ワールドカップや20年の東京五輪を機にインバウンド需要が盛り上がることを期待して宣伝塔を買って出たのだろうが、2号機には他に次号で追及する電波疑惑もあり、知事は暗部をご存じなのか。
ポケトーク2号機は、総務省系の研究開発法人「情報通信研究機構」(NICT)の多言語音声翻訳技術を一部言語で利用している。まさかとは思うが、改正出入国管理法の成立を受け外国人労働者支援事業等での政府調達まで狙っているのだろうか。しかし海外ベンチャー企業の新製品をかすめ取るような端末の「おもてなし」では「日本の恥」以外の何者でもない。