ヴァトー「雅宴図」に重ねた〈戦後〉という迷宮
2019年2月号 LIFE [美の来歴]
J・A・ヴァトーの『シテール島への船出』は18世紀フランスのロココ時代に描かれた「雅宴図」の代表作である。遠くない未来に血生臭い「革命」という大瓦解が待ち受けているのに、そんな気配を微塵も感じさせない貴族たちの「雅な宴」は、気高さのなかに憂いと倦怠を漂わせて、この時代の「気分」を秘めやかに伝えている。フランドル出身の画家ヴァトーが優美で詩的な暗喩に富んだイメージの翼を広げるこの作品の舞台、シテール島はギリシャのエーゲ海の入り口に位置する島で、古代に「愛の女神」のアフロディーテが生まれた伝説のある聖地として知られる。半裸のヴィーナスのもとで美しく装った8組の男女が思い思いの姿勢で囁きを交わしながら、水辺の船へ向かってそぞろ歩んでいる。小高い丘から船着き場への眺めには、うっすらと春霞のような大気が揺蕩(たゆた)う。あちこちに子犬や羽根を持つ天使 ………
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