2019年5月号 LIFE [病める世相の心療内科㉘]
私は患者を呼ぶ際にマイクを使わない。診察室のドアを開け直接、声掛けをする。時にはこちらから患者のところに出向いて診察室まで促す。治療者の側から出向くやり方は高い治療費で自費診療などを行う欧米では珍しくないようだが、多数の患者を診るわが国の保険診療では一般的ではない。ただ私はずいぶん前から椅子から立ち上がってドアを開け、患者に診察の順番が来たことを告げている。マイクで呼ばずに直接待合を打ち眺め、診察の順番が来たことを伝えるのは、患者に対して敬意を表すことが主たる目的ではない。治療上の情報を先に得ることが重要であるからだ。例えば、待合のどこに座るか、端のほうか最前列か、あるいは立っているかで患者の気分を予測できる。一人で来たか、夫と来たか、親と来たか、などでも家族の状況にある程度の予測ができる。再来の場合なら、座る位置の違いでも状態の変化が ………
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