美の来歴⑫ 描かれた「貴族の徴(しるし)」の謎

「宮廷の侍女たち」とベラスケスの周縁的人生

2019年8月号 LIFE [美の来歴]

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午前中の若々しい陽光が南側の窓から差し込んで、ほの暗い室内の情景に鋭い輪郭をもたらしている。胸に赤い花飾りをつけた白いドレスの王女、マルガリータはまだ5歳である。左右の女官、手前の獰猛そうなマスチフ犬、宮廷の道化役(トリックスター)の侏儒と遊び相手の少年。画面の奥には階段の扉を開いて振り返る侍従がいる。手前の壁の鏡に映っているのは国王、フェリペ4世夫妻である。そして左端の中景の暗がりで巨大なカンバスを前に絵筆を握って立つ男こそ、当時57歳の宮廷画家、ディエゴ・ベラスケスである。1656年、ハプスブルク帝国のスペインは版図のポルトガルとオランダを独立で失った。ペストの流行で前世紀末に800万人だった人口は半世紀で600万人に減り、マドリードの宮廷の周囲には数千人の浮浪者が集まった。国王のフェリペ4世は沈みゆくスペインの象徴であった。武芸や外交より狩猟や ………

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