社保改革もこの人「官邸官僚」新原の実力

アイデアの荒唐無稽ぶりから官邸に取り立てられて数々の「改革」を推し進めてきた経産官僚が社会保障改革の仕切り屋に。

2019年11月号 POLITICS

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全世代型社会保障検討会議(首相官邸HPから)

官邸の威光を楯に所管省庁の反対意見を封殺しながら数々の「改革」を推し進めてきた「ミスター官邸官僚」こと新原浩朗(ひろあき)が5年ぶりに経済産業省に戻ってきた。

経済産業政策局長という同省のど真ん中のポストだが、新しいお役目はやはり官邸官僚らしく、内閣府、厚生労働省、財務省をぶった切らなくては前に進まない「全世代型社会保障検討会議」の仕切り役だ。

さっそく9月の検討会議に関する記者レクで、内閣府審議官の田和宏、厚労省政策統括官の伊原和人、財務省主計局次長の宇波弘貴に対し、官邸に歯向かわないのを見越して「今回は集団指導体制ですから。何かご意見があれば遠慮なくどうぞ」と意地悪く発言を促した。

案の定、三人は下を向くばかり。レク会場は寒々とした雰囲気になった。

いつもこのような調子で推し進めるものだから、関わった政策はひずみもある。民主党の菅直人政権時代の再生可能エネルギー固定価格買取制度や、このたび安倍晋三政権が消費税増税対策として導入した複雑すぎるポイント還元制度がその例だ。

さて、その新原が今回手がける「安倍政権の総決算」の全世代型社会保障改革だが、すでに経済界から見放されつつある。

新原が初回の会議で「財政のためにはやらない」と言明。何を削り、誰にどの程度新たに負担を求めるかという大事な議論をしないまま、高齢者の医療窓口負担額の引き上げといったテーマに早々と蓋をしたためだ。

財界関係者によると、収支が悪化する企業の健康保険組合や、財政再建を求める経済団体は「看板倒れなのがはっきりした。まともにお付き合いする時間がもったいない」と失望感に包まれているという。

一方、財政を預かる財務省も困惑している。生活保護費の支給額は現在、年約4兆円だが、就職氷河期世代が高齢者になれば数十兆円に達するとの指摘もある。そうなれば国の財政は確実に破綻するため、厚生労働省と連携し、厚生年金の適用拡大を目指していた。

週の労働時間が30時間未満の短時間労働者をどれだけ強制加入対象とするかがポイントと考えていた厚労省の有識者会議と財務省は、就労支援とともに厚生年金の適用範囲も拡大し、事業者に年金財源負担を求めようと、現在「従業員501人以上」となっている厚生年金の企業規模要件を撤廃しようと目論んだ。

しかし、「財政のためにやらない」とする新原は要件撤廃に強く反対し、「201人以上」といった要件を残すよう主張。

これだと新加入者は100万人に満たず、何もしないと言っているに等しくなるのだが、経済官庁幹部によると、新原は「負担が増える中小企業をどうするつもりだ。衆院解散があるかもしれないのに、責任が取れるのか」と官邸を慮って譲らず、財務省と厚生労働省の「撤廃論」は劣勢になりつつあるという。

そんな新原が関心を寄せるのが最新のテクノロジーを活用した健康寿命の延伸や予防医療の促進だという。

ぶち上げるアイデアの荒唐無稽ぶりや強引さから「ファンタジスタ」とのあだ名を付けられていた新原。崩壊寸前の社会保障の立て直しに必要なのは、不都合な真実の直視と具体策の構想なのだが。(敬称略)

   

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