「風蕭蕭」

あくまで民主主義で闘うメルケル

2020年5月号 連載 [編集後記]

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あくまで民主主義で闘うメルケル

「私たちの国は民主主義国家です。私たちは何ら強制されてではなく、知識を共有し、積極的な参加を奨励することで栄えています。今回の危機も間違いなく克服するでしょう。しかし、いったいどれだけの愛する人を失うことになるでしょうか。(中略)このような事態は初めてです。私たちは心温まる理性ある行動が他人の命を救うのだということを示さなければなりません。どなたも例外なしです。ご自愛し愛する人を守ってください」

(アンゲラ・メルケル独首相、3月18日、テレビ演説・意訳)

2020年4月というこのわずか1カ月間だけを捉えて言うならば、新型コロナウイルスをうまく制御しているのは中国や韓国、ロシアなど、躊躇なく私権を抑え得る国々である。一方、自由や民主主義、市場経済の価値観を重んじてきた国々は制御に苦しんでいる。本当は医学的な要因が左右しているのかもしれない。しかし、外見的にはそう見える。

新型コロナはヒトとヒトが接することで感染する。しかし、人々はお金を稼ぐため、生活するためにヒトと接しなければならない。それを強制的にやめろと国が言えるのか、そこで民主主義国はもだえ苦しんでいる。

ドイツは徹底した検査と隔離と国境管理でなんとか医療崩壊を食い止めている。リーダーが国民に、やらねばならぬことと、下ろせぬ旗が何であるかを明確に示し、究極の落としどころである「理性ある行動」を要請している。

メルケル氏の言葉に力があるのは、社会主義国、東ドイツの出身であることが大きい。家族にも気が許せない密告社会の抑圧を前半生で味わい、後半生はアメリカ大統領に代わり、自由と民主主義、市場経済の守護者だ。コロナを鎮めるためには小説『1984』のような監視社会もやむを得ない? とんでもない!

   

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