ミキハウス(三起商行)社長 木村 皓一氏

「コロナ禍」を跳ね返す「本物志向」の生き方!

2020年8月号 BUSINESS [トップに聞く!]

  • はてなブックマークに追加
木村 皓一 氏

木村 皓一 氏(Koichi Kimura)

ミキハウス(三起商行)社長

1945年滋賀県生まれ。関西大学経済学部を中退し、野村証券入社。実父が経営する婦人服メーカーを経て、71年子供服の製造・卸会社を創業(当時26歳)。世界に通用するベビー・子供服ブランドを作りあげ、五輪代表選手を輩出するスポーツ支援でも名高いカリスマである。

――年末まで東京や大阪の(百貨店内)直営店はインバウンドで絶好調でした。

木村 2月以降インバウンドが消滅し、4月の緊急事態宣言により各地の百貨店は全休となり、当社の国内販売(約150直営店)は前年比98%減になりました。これまでうちはリアル店舗の対面接客により丁寧に商品の説明をし、実際に手に取って買(こ)うていただくため、ダイヤルサービスをしていなかった。急遽、本社(大阪府八尾市)に数十台の電話を並べ、経験豊富なスタッフがお客様のお買い物のお手伝いを始めたところ、朝から電話が鳴り止まず、ゴールデンウイークもフル回転。孫の出産祝いや出産準備品、子供の靴の注文が殺到しました。

――ベビーと靴に注力していますね。

木村 当社には社内資格を持つ出産準備のスペシャリストが200人おり、全国各地の売り場で開く「プレママ・プレパパセミナー」に毎年4千人も参加していました。コロナ禍で動画配信に切り替え、ご自宅などでご希望の日時にオンラインで直接相談できるサービスを開始したところ、お申し込みが殺到。ベビー・子供用品というのは「必需品」なんです。

「抗菌・抗ウイルス」が大当たり

――この間の通信販売の伸びは?

木村 3月は対前年比1.8倍、4月は4倍、5月は5倍近くなりました。

――6月以降はいかがですか?

木村 百貨店(直営)販売が8~9割に回復したので、6月の通販は2倍ぐらいになりました。東京での感染者数が増え始め、先が見えない困った状況です。

――マスク不足の4月6日、子供向けマスクの販売が話題を呼びました。

木村 マスクの企画は、創業以来初の試みです。事業所内託児所の子供たちへの装着テストを繰り返し、最適な形状、快適なつけ心地を目指し、さらにマスクの生地に抗菌・抗ウイルス加工(「ピュアベール」)を施し、小さなお子様を持つご家族の安心につながればと思いました。初回900セット(2枚入り180‌0円)をネット販売したところ、サーバーがダウン。たいへんご迷惑をおかけしました。次いで4月21日に1万セットの「抽選」販売を発表すると、即座に14万件のご応募がありました。ご応募下さった多くのお客様に、少しでもお届けできればと思い、急いで追加生産して順次マスクをお届けすることができました。

――高価でもよく売れるものですね。

木村 ピュアベール加工は、素材メーカーのクラボウと当社が共同開発したもの。広島大学大学院の二川浩樹教授が研究し、商品化された固着化抗菌成分「EtakⓇ(イータック)」を生地に施すことにより、細菌が増えにくく、ウイルスの数を減らす効果が長く続くことが実証済みです。口の中を洗浄するために開発された抗菌成分を使っているから、高い安全性があります。実はピュアベール加工の製品は、2014年に売り出した赤ちゃん用肌着の「天使のはぐ」を皮切りに、フード(帽子)、ミント(手袋)、寝具カバーなど89種類がラインナップされています。マスク販売を機に問い合わせが急増し、人気商品になっています。

――これこそeコマースのパワーですね。

木村 うちの商品はお店で買うものと思っていたお客様の意識も大きく変わるでしょう。初めてのお買い上げは百貨店でも「サイズアップは便利なネットで」というお客様が増えると思う。近い将来、売り上げの半分がeコマースになっても不思議ではない。秋には、よりパワフルで楽しいECサイトに移行する計画です。

僕にできることは「盛り上げ役」

――海外販売はいかがですか?

木村 現在、世界15カ国64店舗で販売しています。中国が33店舗と圧倒的に多いのは、現地で日本価格の2倍以上で売っており、卸の利幅が大きいのです。1~3月の中国販売は3分の2に減ったが、4月以降は持ち直し、5月は前年比1.5倍に増え、6月以降は前年並みになりました。韓国(10店舗)も元に戻ったが、米・英・仏は全くダメですね。

――今年4月の新卒新入社員の半分(28人中14人)が、中国やベトナムからの外国人留学生でした。

木村 外国人を増やさんとどうもならんと覚悟を決めたのは5年前。17年は11人(全採用の21%)、18年は11人(26%)、19年は16人(52%)の留学生を採用しました。彼らは例外なく英語がペラペラ。母国語と日本語を話します。コロナ後は「自国回帰」を主張する人がいますが、人口減少の日本市場はどんどん小さくなっていく。本当にいいものを作って海外で売らなけりゃ日本はどんどん貧しくなる。今年になってホーチミン、オークランド、海南、昆明、寧波などにお店を出し、年内に海外80店舗を目指しています。

――この間、社長の「巣ごもり」は?

木村 世の中は「自粛、自粛」と言うけれど全店休業で販売はゼロ。経済はどうなる、会社と社員はどうなると思うと、無責任なことはできないでしょ。26歳の時に創業して49年が経ち、75歳の今、頭の中で後継者のことを考えていますが、コロナ禍のミキハウスを「線路」に乗せるまでやるしかない。とはいえ、各部門に人材が揃った今、僕にできることは盛り上げ役ぐらい。連休中も休まず本社で電話相談を受け続けるスタッフに牛肉弁当やうな重をぎょうさん差し入れ、風通しのよい大会議室で、僕より50歳も若い社員とリラックス・カンバセーションですわ。新型コロナに感染したら重症化するのは60歳以上が95%と言うけど、僕は毎日会社に出かけ、若い人に声をかけて相談に乗り、大阪と東京を往復していました。免疫力を高めるため栄養満点のお弁当をお腹いっぱい食べながら(笑)。

6月に101歳の母が老衰で亡くなりました。95歳ぐらいまで男子寮の朝夕の食事を、創業期から作り続けた稀有なお母ちゃんでした。父母から教わったことはたくさんありますが、なかでも大きいのは本物志向でしょうか。「いいものを大切に使う」という生き方です。一つ買うと、とにかく大切に使う。何でもかんでもブランド物を買うのではなく、いいものを長く大事に使う。結局、それが当社の商品にそのまま受け継がれていると思います。(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

  • はてなブックマークに追加