被保険者数8万7千人の「東京ニットファッション健康保険組合」のガバナンス不在が露呈。
2021年3月号 BUSINESS
ガバナンス不在の健保組合(東京ニットファッション健康保険組合のHPより)
健保組合と加入企業が対立する異常事態が起こっている。
アパレル業界の総合型健保組合・東京ニットファッション健康保険組合(理事長・宮入正英、以下KF健保)が、加入者の1割を占めるアパレル大手・アダストリア(会長兼社長・福田三千男)から脱退の申し出を受けながら、3年間も拒否し続けていることが1月に判明した。
KF健保は衣料品卸問屋や縫製工場が中心となって1953年に設立されたが、2000年頃から、アダストリアのような新興のアパレル小売が加入しだした。同じアパレルという括りでも、問屋や製造工場は事業所が関東に集中し、高齢の男性が加入者の中心。一方、アパレル小売の従業員は若い女性が大半を占め、店舗がイオンなど全国各地に点在している。アパレル小売が急成長を遂げる中、ミスマッチが広がっていた。
例えば、健診の受診機関が関東に集中しているため、地方の従業員は健診を受けられない。労働安全衛生法は、健診受診率は100%とするよう義務付けているが、アダストリアの受診率は5割を下回っている。KF健保全体でも6割程度と低い。
また、女性が多いのに、他の総合型健保に比べて出産一時金や女性特有の病気へのケアなどが少ないのも不満を呼んでいた。そこで、企業単一の健康保険組合を設立するために17年6月、KF健保に脱退を申し出た。ところが、理事会は脱退に反対。その後も2度脱退を試みるも否決され続けている。
反対理由は財政への深刻な影響だ。KF健保は脱退により年間収支が約4200万円減少すると試算。また、1社の脱退を許すと他のアパレル小売が後に続くことも挙げられた。だが、ミスマッチを放置し続けたことが原因であるだけに、「自業自得」と言わざるを得ない。さらに、KF健保が挙げる「財政影響」にも疑問符がついている。
「KF健保は毎年、使途不明の『雑役務費』に7千万円以上も費やしているし、一部の組合幹部しか利用しないテニスコートの維持費や、人件費の見直しは全くしていない」というのは、業界関係者。「怠慢な組合運営に頬かむりしながら、加入者に負担ばかり求めるのは公正とは言えない」と憤る。
問題は、この使途不明金の開示が拒否されたことだ。
「アダストリアは昨年10月頃から、理事会議事録や経費明細の開示を求めたが、一部の資料のみ閲覧を許され、事務所費などの明細は『閲覧を義務付ける法的根拠がない』と拒否されている。この問題は既に訴訟に発展している」(前出・関係者)
さらにKF健保が健診率について、加入事業者に『虚偽説明』を行っている問題も浮上した。KF健保は1月28日、アダストリアに関する報道を受け、加入企業に「インターネットサイトに掲載された記事について」と題する文書を送付。そこには、〈大手アパレル会社の健康診断受診率は概ね90%を超えているのが現状です〉と述べている。
だが、実際の健診受診率は前述の通り約6割だ。
「KF健保の予算は約7割の受診率を前提に組まれています。一部の受診率の高いアパレル企業を例示したと思われますが、そのような注記はありません。悪質な印象操作です」(同前)
ガバナンス不全と言わざるを得ない。