ノジマ、スルガに手痛いしっぺ返し

収益基盤が音を立てて崩れたスルガ銀行。後ろ盾を失い、経営危機に陥るのは時間の問題。

2021年7月号 BUSINESS

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ハナから同床異夢だったノジマとスルガ銀行

メディアを賑わせたあの異色のコンビが、わずか2年で空中分解した。家電量販店のノジマと、静岡の地銀スルガ銀行の資本業務提携だ。シェアハウスを巡る不正融資によってスルガ銀行が経営危機に直面するなか、両社は2019年5月に業務提携を発表。「家電」と「金融」がタッグを組む国内初の異業種連携として話題を集めた。スルガ銀行の信用不安は遠のいたが、役員人事などを巡って両社の溝が深まり、ノジマの野島広司社長は6月1日、スルガ銀行の取締役副会長(非常勤、社外)を辞任。資本業務提携の解消を申し入れ、すでにスルガ銀行はノジマの持分法適用会社からも外れている。

なぜここまで関係が悪化してしまったのか――。実は、提携解消の伏線は1年前に起きていた。スルガ銀行の発行済み株式18.5%を握る筆頭株主のノジマは昨年4月、有国三知男社長(当時、現会長)に代わる次期社長として、元栃木銀行副頭取の鷹箸一成氏を提案していた。さらに、野島氏を含めた複数名の社外取締役就任や、指名委員会と報酬委員会の委員長ポストを求めるなど、事実上の経営支配を目論んだ。ところが、スルガ銀行側はSGホールディングス出身の嵯峨行介氏を新社長に据え、ノジマの要請をことごとく拒否。結果、野島氏だけが取締役副会長として迎え入れられる「完敗」に終わった。

すでにこのときから、両社は役員人事を巡って激しく対立。巻き返しを狙うノジマにとって、今期の役員人事は「リベンジの場」になっていた。ノジマは新年度を迎えるに当たり、社長交代を含む取締役の過半を自らが提案する役員に入れ替えるよう迫り、スルガ銀行に最後通牒を突き付けた。ところが、スルガ銀行の現経営陣はこの要求も拒絶し、嵯峨体制の続投を発表(有国会長は退任予定)。上述の通り野島氏は副会長の座を去り、両社の関係は修復不可能となってしまった。

「第二の岡野家」を警戒

ある関係者は「ノジマは当初、簡単にスルガ銀行の経営権を握れると踏んでいたが、その目算が大きく外れた」と話す。シェアハウス問題に揺れていた当時のスルガ銀行は、預金残高の5分の1にあたる1兆円近くの預金が流出するなど、深刻な信用不安に陥っていた。他行による救済がメインシナリオと目されていたが、スルガを救う銀行は現れず、また法人向け融資を営んでいないため、公的資金による救済も叶わない。さらには、前会長の岡野光喜氏ら創業家に対する500億円弱もの融資回収や、創業家が所有する株式の譲渡が先行き不透明な状況になっており、ガバナンス不全の元凶として金融庁が強く求めていた「岡野家との決別」も八方塞がりになっていた。

そうした状況を救ったのがノジマだった。創業家が所有していた株式をすべて買い取ることで、創業家はその売却資金などを元手にスルガ銀行への借り入れを返済。ノジマというスポンサーの登場によって信用不安も遠のき、スルガ銀行は経営再建に踏み出すことが可能となった。前出の関係者は「野島社長は死に体だったスルガ銀行を救ったのだから、たとえ20%に届かない出資比率でも簡単に経営を支配できると踏んでいた」と言う。

ところが、スルガ銀行は早期から、「ノジマは第二の岡野家になりかねない」との警戒を強めていた。ノジマは当時、資本業務提携の狙いについて「金融とITの融合」と語っていたが、実のところ具体策はまったくの白紙状態だった。その証拠に、これまでノジマがやってきた提携の中身といえば、スルガ銀行の顧客に送る郵便物にノジマの割引チラシを同封するなど、偏差値の低い大学生でも思いつくレベル。家電量販業界で下位グループに甘んじるノジマがスルガ銀行と資本業務提携を結んだのは、「自社の業績を伸ばす妙手ではなく、ワンマン社長で知られる野島社長の虚栄心によるもの」(スルガ銀行関係者)と見る向きが強く、「明確な目的がないノジマに経営権を握られることで(ノジマの)機関銀行になることが何より怖かった」(同)という。つまり、ノジマとスルガ銀行はハナから同床異夢だったのだ。

ノジマに巨額の含み損

何も結果を残すことができず、短期間で提携関係が雲散霧消となった両社の今後には、手痛いしっぺ返しが待っている。

ノジマは19年10月に、岡野家から議決権比率にして13.52%の株式を譲り受ける際、1株当たり450円/総額140億円を支払っている。それまでに買い増していた約5%の保有分を含めると、株式の取得金額は180億~190億円程度と推計される。

ところが、本格的な経営再建が進まないスルガ銀行の株価は低迷を続けており、コロナバブルの最中でも上向く気配はない。21年3月期の業績を見ると、売上高に相当する経常収益が前期比15%減の997億円と、15年ぶりに1千億円を下回る低迷ぶり。今期も、連結純利益予想が前期比67%減の70億円にまで落ち込む予想を立てている。足元のスルガ銀行の株価は350円前後と、ノジマが追加出資したときより2割以上も下がっており、その含み損は40億円程度に上ると見られる。今後、資本業務提携の解消によって株式の売却先を探すことになるが、多額の売却損が生じるのは必至。「このまま40億円もの資金をドブに捨てるようなことになれば、ノジマの株主から野島社長の責任を問う声が上がってもおかしくはない」(市場関係者)。

一方、再建途上のスルガ銀行も茨の道を進むことになる。個人向けローンが収益の大層を占めるスルガ銀行だが、シェアハウス問題によってビジネスモデルを失ってしまい、前期の個人ローン実行額はわずかに226億円。シェアハウス問題が発覚する直前の17年3月期の実行額4700億円と比べると、20分の1を下回る規模だ。17年3月期に2.9兆円あった個人ローン残高も、21年3月期には2兆円ちょうどまで激減している。要するに、スルガ銀行の収益基盤そのものが音を立てて崩れているのだ。

いくら業務提携の中身がないとはいえ、ノジマという後ろ盾を失ったスルガ銀行を巡って再び経営危機が取り沙汰されるのは、時間の問題といえる。

   

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