埼玉・飯能市の静かな住宅地で起きた家族3人殺害事件は、そこに住む人たちにとっては、思いも寄らない凶事であっただろう。しかしニュースを見聞きして、むしろ他人事ではないととらえて不安や恐怖がよぎった大人は全国にかなり多くいたと私は思っている。京アニ放火殺人、高級官僚の長男殺害、大阪ビル放火などの事件も然り。今日の日本社会の平和でなお豊かに見える家々から、人を殺傷する情念が噴き出しているのである。犯行に至る状況は一見、千差万別で、動機ももっともらしいが、大半は後付け解釈に近い理由付けである。殺戮への衝動を抑え切れないほどに日本社会に深刻な影が生じつつあることを、少なからずの人は己の家庭のなかで感じているのである。冷暖房完備で、コンパクトにまとめられた住みやすい家々の屋根の下で、深淵が生まれているケースは珍しくない。いじめや虐待、疾病などからは ………