2024年6月号
POLITICS [「令和の風雲」]
by 音喜多駿(「日本維新の会」政務調査会長)
音喜多駿(おときた しゅん)1983年東京都生まれ。海城中学.高校、早稲田大学政治経済学部卒。外資系企業を経て東京都議会議員を2期務め、2019年より参議院議員。2023年より衆議院東京都第1区(千代田.新宿)支部長。日本維新の会政務調査会長、東京維新の会幹事長。政策情報を毎日発信するブロガー議員。ステップファミリーで3児の父。
2024年4月30日、私は能登地方の輪島市に災害ボランティアに入りました。ボランティアセンターで登録.受付をして、ニーズ票に従って被災者宅を訪問し、家具の移動や災害ごみの運び出しを行う…。こうした作業に従事をしながら、自分が最終的に政治家になろうと踏み出したきっかけは、あの東日本大震災だったことを懐かしく思い出しました。
学生時代から「政治家を目指す」と周囲に公言していた私は、「将来、本当に政治家になるつもりなら、今の被災地の現状は1日も早く見に行った方がいい。本当に酷いから」と東北出身の先輩に促され、2011年4月に初めて南三陸町に足を踏み入れました。筆舌に尽くしがたい被災状況と、現地の混乱に私は大きな衝撃を受けました。政治と行政の機能不全を目の当たりにして、「いつか政治家になろう」そんな甘い考えは一気に吹き飛び、「いつか、じゃなくて、今すぐ挑戦しなければ、この国は本当に沈んでしまう」そう決意した私は直近の選挙であった13年の都議会議員選挙に出馬.当選し、政治家としてのキャリアを歩みだしました。
そんな私がもとより政治家となって解決したかったことは、世代間格差の是正です。この国における格差は貧富の差、男女の差などの他に、世代間格差があります。この問題を放置したままあと20年、30年も経てば、いよいよこの国は終わってしまうという、強い危機感を今なお持っています。
1983年生まれの私自身、生まれたときからほとんど経済成長というものを知らず、成人してからは就職難と重い社会保険料負担に苦しめられ、周囲の多くは未来に希望が持てないまま漫然と過ごしていました。超少子高齢化のこの時代、ただでさえ人数が少ない若い世代に元気がなくなれば、いよいよ社会の担い手がいなくなってしまいます。
この世代間格差を是正するためには、私は「雇用の流動化」と「社会保障制度改革」の二つを断行する必要があると考えています。
まず雇用については、我が国では長らく新卒一括採用.年功序列.終身雇用という労働体系が一般化してきました。この雇用の硬直性は、明確に若年層から活躍の機会を奪っています。年功序列という壁があるがゆえに、能力のある若手が抜擢されない、活躍しても応分の処遇.給与を受け取れない。あるいは新進気鋭の若手人材を中途採用したくとも、終身雇用の慣習により人員を入れ替えることが難しい。
さらにこうした流動性の低い日本型雇用の慣習は、女性からも活躍の機会を奪い取っています。妊娠.出産(育児)というライフステージを控える女性は、男性に比べて労働から離れる時間が発生しやすい、いわゆる「流動性が高い」人材属性を持っています。これは年功を積みづらいということを意味しており、年功序列型の日本組織においては出世が阻まれてしまうことになります。多くの女性が出産.育児とキャリアの両立を諦める大きな理由は、「『年功(継続して勤務する時間)』で評価されてしまう日本型雇用システム」にあるのです。
これらを解消する唯一の方法は雇用を流動化させること、具体的にとるべき政策は金銭解雇の導入.解雇規制の緩和です。これは決して、労働者の切り捨てを意味するわけではありません。もちろん導入する際はセーフティネットや労働訓練の充実とのセットが前提となりますし、すでに中小企業ではいわゆる「首切り」が横行している実態があります。むしろ金銭解雇ルールをしっかりと定め、それを企業側にも遵守させることは、金銭保障もないままに解雇されてしまう労働者の権利を守ることにも繋がります。
一定の条件下で金銭解雇が認められれば、経営する側の人材採用.登用の選択肢が増えて、若手や女性に活躍の機会が開かれることになります。一度雇ったら容易には解雇ができない.給料も下げられない(下方硬直性が強い)状況では経営者も抜擢人事に二の足を踏みますが、そうした状況が改善されれば、成長産業により有為な人材が移動しやすくなるはずです。
こうした雇用の流動化によって若い世代に活躍の機会を与えるとともに、成長産業を育てる。世代間格差の是正と経済成長を一石二鳥で実現できるのが、この雇用の流動化なのです。
もう一つの社会保障制度改革も、避けて通ることはできません。もはや現役世代の社会保険料負担は高すぎて、限界を迎えています。政府与党は今国会で、「子育て支援金」の名目でさらにこの社会保険料負担を増やそうと画策していますが、論外だと言う他ありません。世代間格差を是正し、若い世代に元気になってもらうためにやることは、効果が不透明なバラマキ支援ではなく社会保険料負担を下げること.手元にお金を返して現役世代の可処分所得を上げることです。
そのためには、昭和の時代に作られて、時代遅れになっている医療.年金などの社会保障制度改革が必要不可欠です。特に医療費についてはついに年間支出が45兆円を超え、このままではさらに膨らみ続けます。そのうち約4割を占めていて、今後も急激に増進が予想されているのが後期高齢者医療制度、75歳以上への医療費支出で、約18兆円です。
75歳以上の高齢者の医療費は現在、多くの場合で9割引きになっており、一部の例外を除いて窓口負担はたったの1割です。それでは約18兆円の医療費のほとんどはカバーできません。それは誰が負担しているのか。半分は税金、もう半分は若い世代からの社会保険料の「仕送り」です。これが高すぎる社会保険料の正体なのです。
だからこそ今、この医療という「聖域」にもタブーなく切り込んで、窓口負担の見直しを含む制度改革を断行しなければなりません。窓口負担の9割引きはもうやめて、生活困窮者には救済措置を設けた上で原則として3割負担をお願いする。窓口負担の適正化は、頻回受診を防ぐ「行動変容」が期待できますから、医療費そのものを抑制していく効果も期待できるはずです。日本維新の会はこうした提案を含む医療制度の抜本改革案「医療維新」を2024年3月に発表したところです。
しかしながら、雇用の流動化にしても、医療制度改革にしても、政府与党はこれまで改革を先送りにしてきました。選挙で票を入れてくれる有権者を敵に回すから、業界団体が反対するから。まさに政治家の自己保身に囚われた古いしがらみ政治が、世代間格差を助長してきたのです。
私が政治家として天命を得た意義は、この改革にタブーなく挑戦することにあると考えています。私にも維新にも、業界団体のしがらみはありません。選挙を恐れず、批判を恐れず、次の世代のために必要な改革を断行していく。その決意で「雇用の流動化」「社会保障制度改革」この二つを必ずやり遂げたいと考えています。