「認めないと部下を逮捕する!」/「五輪談合事件」衝撃の告白/検察官と裁判官が「暴走」

相変わらず供述誘導。被告・博報堂の最終意見陳述で、検事が代表取締役を呼び付け「上が納得しないから」と、わび状を提出させた衝撃の告白も。判決書は間違いだらけ。

2024年7月号 BUSINESS [異常な公判]

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東京地裁刑事16部の安永健次裁判長(司法大観より)

東京地検特捜部が2021年の東京五輪・パラリンピックの大会運営を巡って立件した談合事件。検察の見立て通りに供述させる取り調べや、応じないと身柄拘束が続く「人質司法」は相変わらずで、強引なやり方に意見書を出すと、代表取締役が呼び付けられ、わび状を書かされた会社もある。公判になってから全被告会社が起訴内容を争っているが、東京地裁の公判担当部は検察に都合の悪い証拠は採用しないうえ、判決書が間違いだらけという執務能力にも問題が浮上。検察官と裁判官が余すところなく暴走する異常な事件となっているようだ。

「認めないと部下を逮捕する」と脅す

五輪談合事件で独禁法違反(不当な取引制限)の罪に問われたのは、発注側が大会組織委員会大会運営局の森泰夫元次長。受注側は①電通グループと電通の逸見晃治元スポーツ局長補、②博報堂と博報堂DYスポーツマーケティングの横溝健一郎前社長、③東急エージェンシーと安田光夫元執行役員、④セレスポと鎌田義次専務、⑤セイムトゥーと海野雅生取締役、⑥フジクリエイティブコーポレーション(FCC)と藤野昌彦専務で、①~③は広告会社、④~⑥はイベント制作会社。

検察関係者によると、特捜部が五輪の大会スポンサー選定などを巡る贈収賄事件を捜査中、贈賄側の一つの広告会社ADKホールディングスがリハーサルに当たるテストイベントの競争入札で、受注調整があったと認め、独禁法の課徴金減免制度(リーニエンシー)に基づいて公正取引委員会に自主申告した。

特捜部は2022年11月、森元次長の自宅や被告会社などの関係先を捜索。23年2月に談合を主導したとして森元次長と逸見元局長補、任意の取り調べで談合を認めなかった鎌田、藤野両専務の計4人を逮捕した。公取委から告発を受け、特捜部は①~⑥の6社6人と森元次長を起訴した。任意の調べで談合を認めた②③⑤の3人は在宅起訴となった。

起訴状では、①~⑥の6人とADKの担当者、森元次長らは共謀のうえ、2018年2~7月、テストイベント計画立案業務「等」について、①~⑥とADKの希望等を考慮して受注予定業者を決定するとともに、基本的に予定業者のみが入札する合意をし、計7社が共同して同業務「等」の受注に関して相互にその事業活動を拘束、遂行することにより、競争を実質的に制限したとしている。

ベテランの司法記者は「計画立案業務『等』には、テストイベントの実施業務と本大会の運営業務が含まれていると検察官は主張している。独禁法96条で立件に必要とされる公取委の告発には『国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案』という基準があり、発注額計5億7千万円の競争入札だった計画立案業務だけでは、どう見ても基準に届かない。入札時には、計画立案業務の受注先とテストイベント実施と本大会運営の両業務(発注額は計431億5千万円)を随意契約することになっていたとして、7社は両業務も談合したことにした」と解説する。

「検察は『完落ち』した森元次長の供述などに基づき、大会組織委の2018年3月15日の経営会議で計画立案業務の受注先に両業務を随意契約で発注することが決まり、総額437億2千万円の談合だと主張する。捜査段階は検事と裁判官が示し合わせて絵に描いたような『人質司法』の状態。否認して勾留が6~8カ月も続いた④の鎌田専務、⑥の藤野専務以外はこうした検察の主張を渋々認めた。『認めないと部下を逮捕する』と脅された被告会社の関係者もいると聞いている」と同記者は話す。

昨年7月の森元次長公判の検察官冒頭陳述によると、被告6社のテストイベントの計画立案と実施、本大会の運営各業務の受注総額は20億7千万~113億4千万円(表参照)。

森元次長は起訴内容を全て認め、五輪談合を一手に担当する東京地裁の刑事16部(安永健次裁判長、内藤恵美子、足立洋平両裁判官)は昨年12月の判決で、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡した。

録画媒体を調べようとしない刑事16部

博報堂本社が入居するビルに踏み込む捜査当局(2022年11月28日)

Photo:時事問題

一方、同記者や被告側の関係者によると、森元次長以外の公判では、①と③はテストイベント計画立案業務の談合を認め、テストイベント実施と本大会運営両業務の談合は否認。②と④~⑥は起訴内容を全て争っている(表参照)。被告側は「大会組織委で両業務を随意契約とすることが決まったのは19年以降であり、受注側は随意契約になるとは想像もしていなかった。それらを見越して談合ができるわけがない」と主張している。

公判では、③の安田元役員が「森元次長や電通側からテストイベント実施と本大会運営の両業務について約束されたことはない」と述べた。問題の3月15日の経営会議には「本大会に関する事業委託についてはテストイベントの状況を考慮し、別途検討を行う」と書かれた資料が提出されていたことがわかり、検察の主張と矛盾するという。

テストイベント計画立案業務は競技会場ごとの競争入札で、森元次長から特定競技の入札参加を依頼されたが、それ以外の競技の制限はなく、実際に入札に参加しているので、独禁法違反の不当な取引制限に当たらないと主張した被告会社もある。

②の横溝前社長は今年3月、公判の最終意見陳述で「私は独禁法を詳しく知らないし、取り調べでも記憶を思い出して正直に話してきた。しかし『こうではなかったか』と聞かれて答えたら、それが断定的な表現になった。話していないことも供述調書に書かれ、訂正を求めても拒否された。話していないことも入れ込まれた。都合の良いところだけが切り取られ、検察は公平公正な組織だと思っていたが、そうではなかった。話を誘導することが正義なのでしょうか」と特捜部の捜査を痛烈に批判した。

そのうえで「森さんが逮捕されていたときに、最高検に(こうした捜査に対する)意見書を提出しました。当社(博報堂)の代表取締役を呼び『これが真摯なスタンスですか』『こうなれば他の人と同様に扱う』と言いましたね。私も逮捕するということなのでしょうか。会社としてわび状の提出を求められました。『真摯に受け入れる』という文言を入れるようにも言われた。検事いわく『上が納得しないから』とのことで、逮捕をほのめかされ、結局会社はわび状を提出させられた」という衝撃の告白もあった。

被告側の関係者は「博報堂のわび状には、ここまでやるかと驚かされた。今回の事件はテストイベント計画立案業務でさえ、森元次長が業者の側に応札を依頼しただけで、業者間の合意はなく、立件は難しい。それなのに随意契約の二つの業務まで取引制限されていたなどと主張するから、検察官が無理に無理を重ねた。通常の裁判所であれば、取り調べの様子を録音・録画した媒体を証拠採用し、検察官に言われて変遷していった森元次長の供述調書は信用できないと排除するが、東京地裁刑事16部は録画媒体を調べようともしない」と嘆く。

録画媒体には、検察の見立て通りに供述しない④の鎌田専務に対し、増田統子検事が「人間は中学生にもなったら、悪いことをやったら反省するようになるのが普通。あなたにはそれがない。自分は悪くない、全部他人のせいだと言っている」と人格非難を続ける場面なども収録されているという。

職務怠慢・執務能力欠く安永裁判長

さらに刑事16部は「一方的に検察官の肩を持つだけではなく、執務能力を欠いている」(被告側関係者)という。公判前整理手続きで本来必要な争点と証拠の絞り込みができないうえ、公判間隔は最高裁の調査で起訴内容を否認している被告の平均が1.7カ月なのに、4カ月以上開いた被告がいた。

極め付きは「森元次長の判決書に誤りがあることだ」(同)。判決書には「対象となった全26の組織委員会の設定に係る各会場単位のうちテストイベント計画立案等業務委託契約について一般競争入札が行われた25の会場単位については、うち24において受注予定事業者が受注するに至り」と書かれている。しかし入札が行われたのは26の競技会場で、うち1会場は応札社ゼロの入札不調だった。

また判決書には「大多数については受注予定事業者以外の事業者が前記入札に参加することはない」とあるが、検察官が受注予定社と主張する会社以外が入札に参加したのは26会場のうち9会場で、26分の17が「大多数」なのか、どちらも恣意的な誤りにも見える。契約と調達の区別がついていない認定もあり、事件を理解していない可能性もある。

裁判所関係者は「最低限必要な公正らしさを欠き、ミスまで。16部を総括する安永氏は、裁判官であれば憧れる東京地裁の裁判長であり、福岡高裁事務局長という、管内の裁判官人事なども含めた司法行政のポストも経験している。人騒がせな無罪判決など出さず、大過なく務めれば、さらに上へ行けると思い込んでいるのかもしれない。ただ事務局長と言っても東京高裁や大阪高裁ではないし、昔と違って検察官が不合理な主張をしたときは正してこそ評価される。思い違いをしているのではないか。裁判員対象事件ではなく、いさめる裁判員もいない」と心配している。

前出の記者によると、こうした異常事態から抜け出すため、安永氏らの執務能力を問い、裁判所法82条に基づく監督権による処分を最高裁などに求めたり、職務上の義務違反と職務怠慢を理由に安永氏らを弾劾裁判所に訴追するよう国会の委員会に請求したりすることを検討している被告もいるという。

   

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