怪僧が「私の勉強をした弟子」と呼ぶ「美しすぎるファーストレディー」に反大統領勢力はロックオン!
2024年7月号 DEEP
怪僧「天空」が講義するユーチューブチャンネル「正法時代」より
韓国の尹錫悦大統領(63)への支持率が5月下旬、21%と就任以来最低に落ち込み、政権は任期を3年残しレームダック(死に体)どころか「植物状態」だとの声も出始めた。経済運営への不満と並び、尹大統領が自身と金建希夫人(51)のスキャンダルを強権で抑え込もうとする姿勢が批判の対象になっている。
さらに、大統領が頭が上がらない金建希が、裁判所が「カルト」と認めた宗教指導者に帰依し、この人物が尹政権の政策決定に関与しているとの疑惑まで拡大しており、尹政権の前途は暗い。
天空が「私の勉強をする弟子」と呼ぶ金建希に頭が上がらない尹錫悦大統領
Photo:EPA=時事
4月の総選挙で国会300議席のうち192議席を掌握した野党側は、4年の任期が5月30日に始まった国会で、大統領夫妻や側近の疑惑を「特別検察官」が捜査する特別法を成立させ、その先に金建希の逮捕と尹錫悦の弾劾を狙っている。中でも金建希に対する特別法案は7つもの疑惑を捜査対象にしている。日本で「美しすぎるファーストレディー」ともてはやされている金建希を反大統領勢力は、政権の「アキレス腱」「地雷」とみてロックオンしている。
疑惑の中で大きいのは、BMWの代理店ドイツモーターズの旧経営陣が91人の名義の口座を使った空売りなどで自社の株価を引き上げた事件だ。昨年2月に同社元会長に有罪を言い渡したソウル中央地裁判決は、金建希らの口座が株価操作に使われたことを認定。検察は二人が同社株の取引で23億ウォン(約2.5億円)の利益を上げたとする意見書を元会長の公判に提出したと報じられている。
もう一つ有名なのは、政権発足後の2022年9月に金建希が亡父の友人と称して会いに来た牧師からディオールのバッグをプレゼントされた問題だ。
牧師はその様子を隠し撮りし昨年11月に暴露。これは左派系メディアと牧師が金建希を罠にかけるため仕組んだ工作であることが判明し、このメディアと牧師の泥仕合も起きているが、金建希がバッグを受け取った請託禁止法違反行為は確認された状態だ。
改選前も優位だった野党は前の国会でこれら疑惑に絡む特別検察官法案を出し可決したが、尹が大統領拒否権を使って葬り去っている。ところが5月上旬、金建希問題には「開店休業」状態だった検察が捜査に着手する姿勢を見せる。周知のとおり検事総長出身の尹錫悦は検察一家の大ボスで、総選挙まで与党「国民の力」のトップを務めた韓東勲前法相ら尹派検事が要職を占める政府は「検察政権」と言われる。その検察が大統領夫人を真面目に捜査すると言い出したことは、弱体化した尹政権から離れると宣言したに等しい。
これに激怒した尹は計画になかった検察人事を敢行。最高検8部署のうち6部署の責任者や、捜査を担うソウル中央地検の検事正、担当の次長検事2人をすげかえた。なりふり構わない最高権力者の焦りを世間が見透かした結果が5月31日に世論調査会社、韓国ギャラップが出した支持率21%という数字だ。
調査直前の5月26、27両日には尹がほとんど唯一点数を稼げる外交分野で、岸田文雄首相と中国の李強首相をソウルに呼んでの日中韓首脳会議が開かれたが、これを見ても韓国世論は尹を評価しなかった。
そこで尹は6月3日、南東部・浦項沖の海底に「最大140億バレルもの石油とガスが埋蔵されている可能性が非常に高いという結果が出た」と唐突に記者会見で発表する。資源のない韓国で「エネルギー確保」に期待を持たせる与太話の発表は政権浮揚のため以前から繰り返されてきた常套手段だ。今回の発表もどれほど胡散臭いかは後述するが、ここで目を引くのが尹の発表を事前に「予言」した人物がいることだ。
それが、「正しく生きれば困難はなくなる」との説教を流すユーチューブチャンネル「正法時代」を運用する天空(チョンゴン)だ。腰まで届きそうな長髪と白いあごひげをたくわえ、「山で17年間修行した」「幽体離脱をして次元界に入り歴史を学んでいる」と口にして神秘性を演出するこの怪僧は、海運会社経営者をスポンサーにオンラインとオフライン両方の講演で信徒を増やし続けている。
天空は、これまで「私の勉強をした弟子」と呼ぶ金建希から2016年ごろに面会を求められ、会いに行くと検事総長になる前の尹錫悦も一緒に現れたと説明。尹の大統領選出馬が有力視されていた21年3月には「(尹を)今も助けている。岐路に立つたびに対処できるよう俺が言ってきた」と発言し、このころまで「一か月に2、3回」は会っていたと後に話している。
尹は付き合いを認めながらも指導を受ける関係ではないと主張する。だが、大統領就任式には天空の最側近の女性を招待。この女性は天空と06年まで不倫関係を持ったとして当時韓国にあった姦通罪で天空と共に有罪判決を受けた人物で、韓国メディアは控訴審判決が「カルト宗教の教祖と信徒という特殊な関係」が不倫の背景にあったと明記したと伝えている。
さらに天空は、尹政権が発足と同時に行った大統領執務室の移転を「助言した」とも公言。最近では大統領執務室の前にコンクリート製の筒状の物が建てられ、何かの儀式の道具ではないかとの見方と、天空の教示を受けた金建希の意向で設置されたのではないかとの憶測が飛び交っていた。そこへきて尹の発表に先立つ5月16日には、「先端の時代には朝鮮半島にある物質は掘ればみんな出てくる。この国の下にはガスも石油も多くある」と発言していた。
天空と尹が豪語した油田情報はしかし、根拠が極めて希薄なことがすぐに露呈する。尹は「昨年2月、多くの石油ガス田が存在する可能性が高いとの判断の下、世界最高水準の深海技術評価専門企業に分析を任せた」末に、有望だとの結果が出たと説明している。だが問題の海域はオーストラリアのエネルギー企業が15年間に渡って石油・ガス開発の可能性を探る調査をした結果、「将来性がない」と判断して昨年1月に撤退している。投げ出されたこの調査のデータも使った米企業の分析だけに乗ったのが尹の発表だった。しかもこの米企業は米テキサス州の本社所在地を住宅に置いており、ホームページの接続もできない状態にあると報じられている。
資源開発に携わった韓国政府元高官は「信じがたいほど信頼性が低い発表で、恥ずかしい」と尹の大言壮語を非難。天空に油田情報が漏洩したのではなく、どうにもならない分析を誇大に発表せよと天空が指図したのではないか、との見方まで出る始末だ。
野党の議席は大統領の法案拒否権を覆したり大統領弾劾発議を行ったりできる200議席に8議席足りないが、与党内でも政権への不満が拡大しており、8人程度の造反はいつでも起きうるとみられている。カルトの政権介入発覚を機に与党が割れ、野党主導の弾劾が成立する――。7年前の朴槿恵の転落劇が再現される可能性が出てきた。(敬称略)