深層インタビュー!/福岡11区「武田氏落選」/「大番狂わせ」の仕掛け人に聞く!/by 井上久男・ジャーナリスト

号外速報(3月17日 12:00)

2025年4月号 DEEP [号外速報]
by 井上久男(ジャーナリスト)

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「福岡11区」の流れを変えたと評判を呼んだ「センキョタイムズ」の動画配信

選挙情勢や地方自治体が抱えるスキャンダルなどを面白おかしく、かつ分かりやすく報じているYouTube「センキョタイムズ」――。まだ福岡県内の情報が中心だが、地元政治家からは警戒され、恐れられ、その注目度は高まるばかりだ。

福岡11区で圧倒的な集票力(連続7回当選)を誇り、総務相、二階派事務総長などを歴任。「将来の宰相候補」の呼び声がかかるほどの武田良太氏(56)が、昨年10月総選挙で苦杯を喫したのは記憶に新しい。

武田氏の「まさかの落選」=総選挙における「大番狂わせ」の流れを作ったのは、「武田王国」を支える地元の首長や議員が抱える疑惑を、タブーを恐れず追及してきた「センキョタイムズ」の影響ではないかと評判を呼んだ。

「選挙テックラボ」の大井忠賢社長(右)とメインキャスターを務める元木哲三氏

同YouTubeを運営するのは2021年創業の「選挙テックラボ」(本社・福岡市)。同社の大井忠賢社長(43)とメインキャスターを務める元木哲三氏(53)に「センキョタイムズ」設立の狙いと「大番狂わせ」に至る経緯について伺った。(聞き手/井上久男 ジャーナリスト)

冗談半分で「殺されるリスクを考えろよ」

井上 実は私は福岡11区内にある、県内で最も人口が少ない豊前市の出身でして、無報酬・非常勤で同市の政策アドバイザーを務めています。地元ではセンキョタイムズの話題がよく出ます。落ちるはずのない武田良太氏の落選は「タブーを恐れぬセンキョタイムズの配信が流れを変えた」と言う人もいます。

大井忠賢氏 1982年生まれ。福岡県田川郡福智町出身。(株)選挙テックラボ社長。妻、3歳の娘一人。九州大学地域政策デザインスクール客員助教。

大井 まず2年前の統一地方選における田川市長選(福岡11区内)で、武田陣営の現職・二場公人市長が落選し、「反武田」の旗を掲げて戦った村上卓哉氏が当選した影響が大きかったと思います。田川市には武田氏の事務所が置かれ、最も強い選挙地盤です。また、田川市に隣接する大任(おおとう)町の永原譲二町長は長年、福岡県町村会長を務めた「地元のドン」であり、武田氏の選挙対策本部長を務めていました。この永原町長の義理の弟が落選した二場市長ですから、武田陣営は痛かったはずです。センキョタイムズが田川市や大任町など近隣市町村が運営する新ごみ処理施設場の建設費の情報公開の在り方など、様々な疑惑を報じたことで、有権者は「地元でおかしなことが起きている」と感じ、二場市長や永原町長への批判が高まったのだと思います。田川市長が「反武田」に代わった影響もあり、昨年総選挙で武田氏の田川市での得票数が、日本維新の会の新人候補・村上智信氏に競り負け、小選挙区で落選しました。

井上 いわゆる「裏金議員」の武田氏は僅差の敗戦ながら比例復活できませんでした。旧産炭地の田川市周辺は気性が荒いことでも知られています。地元の実力者に歯向かい、敵に回すことへの恐れはなかったですか。

大井 冗談半分で「殺されるリスクを考えろよ」と言う知人もいましたが、私は一回死を覚悟しているので実は怖いものなし、なんです。24歳の時に白血病になり、「余命半年」と医師から告げられ、それからは「自分の思い通りに生きよう」と決めました。ファーストリテイリング副社長などを経てリヴァンプを創業した澤田貴司さんと知り合い、「うちに来ないか」と誘われて、そこで事業再生プロジェクトなどに携わりました。 32歳で博多に戻って、実家がある田川郡福智町で家業の落雁屋を継いだかと思えば、自治体向けのコンサルティング会社を立ち上げたり、福岡県議会議員の秘書を務めたりしていました。

「無関心こそ害悪」地域を衰退させる

井上 センキョタイムズを始めた理由は?

大井 祖父は福岡県金田町(現福智町)の町長を務め、父は同町議会議員でした。政治家の家に育ったので、子どもの頃から選挙は身近でした。しかし、「選挙には金がかかるぞ」とか「選挙に出ても何もいいことないぞ」とよく言っているのを聞いて、疑問を持つようになりました。地方議員は議会開催中だけ働けばいい感じなので、そこそこの報酬をもらいながら、年間300日は他のことができる。実は「美味しい仕事」であるため、新人が立候補するハードルを高くして利権を独占する仕組みがあるのではないかと思ったのです。そして地方議会の選挙はいつも同じような顔ぶれしか出ないから、有権者も関心を失い、投票率が下がる。無関心こそ害悪で、地域の衰退を加速させる一因となっています。一時は私自身が選挙に出て、世の中を変えたいと思ったのですが、これだけSNSが普及するなど技術が進化した今、新しい技術を使って選挙をDX化したり、エンタメ化したりすることで、既得権や既存の政治家のアップデイトを支援することの方が世の中を良い方向に変えられると思いました。かっこよく言えば、民主主義をアップデイトしたいということです。そこで、選挙の裏側や闇を分かりやすく報じて、有権者に関心をもってもらいたいと考えました。 また、志ある者が誰でも立候補者できる社会を作りたいと思い、候補者の発掘や育成のために選挙スクールという活動もしています。これまで、スクールの卒業生4人が、北海道苫小牧市、福岡県北九州市、同宗像市、同糸田町の議員となって活躍しています。 こうした活動が徐々に認知され、視聴者も増えたことで、私の給料はまだ出ませんが、選挙テックラボの経営も赤字を脱するところまできました。

「タブーがないユーチューバー」を自負

井上 メインキャスターの元木さんは、昨今の選挙運動の変化をどう見ていますか。

元木哲三氏 1971年生まれ。福岡市出身。(株)チカラ代表。ミュージシャンを経て東京や上海で執筆活動。2010年から17年までクロスFM「モーニングゲート」などのパーソナリティ。

元木 昨夏の東京都知事選、昨年11月の兵庫県知事出直し選でもSNSの影響力が著しく高まっています。「主要大手メディアは本当のことを書かない既得権勢力なので、SNSの方が正しい」といった見方さえ出るほどですから、我々が配信しているセンキョタイムズも、これから伸びていくチャンスはあると思います。一方で、SNSメディアの実態は玉石混交。嘘を垂れ流すチャンネルは、これから一気に淘汰されるとも思っています。

井上 私の子どもの頃から田川市や豊前市は利権の宝庫と言われていました。実力者が裏で大儲けしているといったような噂ばかり流れていました。ネタだらけではないですか?

大井 怪しい利権がありそうな自治体や、そこの首長や議会選挙をターゲットにしている面はあります。確かに福岡県内はネタの宝庫ですね。田川市周辺の選挙は実弾(お金)が飛び交っている現状があり、選挙違反の手法を紹介した動画がユーチューブで話題になったこともあります。

元木 単に動画配信するだけではなく、問題があれば刑事告発することもあります。実際、昨年の総選挙に絡んで、福岡県議会議長の香原勝司氏が公示前に選挙運動をしていたとして公職選挙法違反の疑いで刑事告発しました。このため一部の政治家は、センキョタイムズのことを「迷惑系ユーチューバー」と言っていますが、私は「タブーがないユーチューバー」を自負しています。いい取材をしている記者でも大手メディアにはタブーがあるため、自分が所属するメディアで記事が書けない人もいる。そうした記者の受け皿にもなりたいと思っています。実際、大手メディアの記者の方からの情報提供をもとに取材して配信しているケースも多いです。

20代福岡県職員らが「選挙に出たい」

井上 お二人はどのようにして知り合い、センキョタイムズを始めたのですか。

大井 元木さんが福岡のFM局で番組を持っていた時、私がファンで連絡を取って、番組に出演したのをきっかけに意気投合しました。選挙テックラボにも出資してもらって共同で経営しているイメージです。

元木 地方政治はメディアがあまり取り上げないことをいいことに、利権や不正がはびこっていることに問題意識を持っていました。そんな時に大井君から「地方自治体を含めた約5千選挙区の選挙結果などを示すデーターベースを作ったので、それを知ってもらうためにはどうしたらいいか」と相談を受け、「じゃあ、メディアを作ろう」と、ユーチューブ番組の配信を提案したんです。

井上 目立つ活動や過激な配信をしていると、地元で摩擦が起きませんか。

大井 現実に嫌がらせのような訴訟も受けていますし、福岡県議会議長を刑事告発した途端に業務委託を請けていたシンクタンクのフェローの契約を解除されました。とはいえ、うれしいことの方が多い。政治に無関心だった方が、視聴をきっかけに政治ウォッチャーになってくれたり、20代の福岡県職員や、福岡市の職員から「選挙に出たい」との相談を受けたりします。徐々に私たちの考えを受け入れてくれる人が広がっているとの実感があります。

著者プロフィール

井上久男

ジャーナリスト

   

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