玉木代表とは昔から食事する親しい仲。国民民主との連立論がくすぶる中、キーマンとして浮上するか。
2025年5月号 POLITICS
自画自賛のYoutube動画(本人のXより)
「ローマで2番になるよりも村で1番になりたいものだ」
尊敬する古代ローマの政治家、ジュリアス・シーザーが語った言葉を改めて噛みしめているのだろうか。9人が立候補した昨秋の自民党総裁選で2位にも届かず6位に終わった前幹事長の茂木敏充である。
総裁となった石破茂の元で初めて開かれた党大会翌日の3月10日夜、茂木と最高顧問の麻生太郎、前首相の岸田文雄が都内の日本料理店で会食した。
「3人が店に入る映像はNHKの夜9時のニュースをはじめ各メディアで流れました。注目を集めるために茂木さんが記者に会食場所などを知らせたと言われています」
自民党関係者が明かす。
岸田政権時代は派閥の領袖だった3人が政権の重要事項を決定、シーザーがポンペイウスらと協力したローマの政治体制さながら「三頭政治」と呼ばれた。だが、総裁選の決選投票で麻生と茂木が前経済安全保障相の高市早苗を支持したのに対し、岸田は石破を支援。結局、石破が新総裁に選出され、麻生と岸田の関係は悪化、3者の会談も途絶えていた。この日の会食は茂木が橋渡し役になって呼びかけたとされる。
石破内閣の支持率が低迷する中、茂木は党内有力者との関係維持に加え、情報発信を精力的に行っている。
1月から動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)で「日本を変える茂木としみつのスゴかわいい」の配信をスタート。若者言葉のクイズなどに挑戦しているほか、咀嚼音を聴かせるASMR動画のクリエイターで10代に人気のあやんぬと異色のコラボ。世代間ギャップからか時折微妙な空気が流れても、構わずキャンディやせんべいを、音を立てて噛み砕く茂木の若者アピールが涙ぐましい。
2月にはYouTube(ユーチューブ)で「茂木としみつの改革チャンネル」を開設。国会議員や企業経営者らとの対談を通し、日米貿易交渉でトランプ大統領から「タフネゴシエーター」と評された実行力や要職を歴任してきたキャリアを宣伝している。
それでも「能力はピカイチだが、世間の知名度はイマイチ。かつて率いた茂木派が解散した今、党内で『ポスト石破』に担ぎ上げようという大きな動きは出ていない」と、政治部記者が解説する。実際、党内で高市や元環境相の小泉進次郎のように名前が上がることは少ない。
とはいえ政界一寸先は闇、可能性が全くないとも言えないかもしれない。
ここに来て注目されるのが、茂木が持つ国民民主党とのパイプだ。岸田政権時代に幹事長として、麻生と共に、国民民主党の自公連立政権への参加を画策していた経緯がある。また、代表の玉木雄一郎とは昔から定期的に食事をする親しい仲で、ユーチューブでも早速共演した。
衆院で少数与党となった自民では依然、国民民主との連立論がくすぶっている。野党が提出を検討している石破内閣に対する不信任決議案や夏の参院選の結果次第では一気に政局が流動化し、茂木がキーマンとして浮上する可能性はある。前回2位だった高市は党内にアンチが少なくないうえ、自民の閣僚経験者は「唯一派閥として残る麻生派を率いる麻生さんは茂木さんのことを評価している」と語る。
齢69――。人生計画より遅れたというが、「まだ議員やってんの」というアンチコメントに答えるティックトックのコーナーで、「もうちょっと、日本を変えるまで頑張ってみたい」と漏らすなど、本人は「村の1番」へ大真面目なのだ。
(敬称略)