「新NSS」宣言の筋書き通り/「反米」ベネズエラ大統領を排除!/トランプは「西半球防衛」専念

2026年1月号 POLITICS [「暗闇の森」を歩く]
by 園田耕司 (朝日新聞政治部次長)

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新NSSに「日本」という記述は5箇所だけ(ホワイトハウスのHPより)

「我々はモンロー主義の『トランプ系』を主張し、実行する」――。

トランプ米大統領が発表した米国の国家安全保障戦略(National Security Strategy/以下、新NSS)は、西半球を米国の勢力圏とみなして権益確保を前面に打ち出す一方、欧州諸国には極めて厳しい姿勢を示した。孤立主義の道を選び、「西半球防衛」に専念することを宣言した新NSSは、第2次世界大戦後、米国主導で築かれてきた既存のリベラルな国際秩序を終焉させるものになるかもしれない。

米国の新NSSは基本的に4年に1度の頻度で策定される米国の外交安全保障の指針となる戦略文書であると同時に、超大国の戦略文書であるがゆえに世界秩序の形成に極めて大きな影響を与えてきた。トランプ政権1期目の国家安全保障戦略では、中国とロシアを初めて「戦略的競争国」と位置づけ、次のバイデン政権の国家安全保障戦略でもこうした考え方を引き継ぎつつ、北大西洋条約機構(NATO)諸国や日本など同盟国との関係強化の重要性を訴えた。

今回のトランプ政権2期目の新NSSの最大の注目ポイントは、「モンロー主義のトランプ系(Trump Corollary[Trump Corollary:Trump Corollary to the Monroe Doctrine(モンロー主義のトランプ再定義)])」という考え方を打ち出した点にある。新NSSでは「我々は、麻薬テロリストやカルテル、国境を越えた犯罪組織に対抗するため、我々に協力する政府が存在する西半球であって欲しい」などと記した上で、「言い換えれば、我々はモンロー主義の『トランプ系』を主張し、実行する」と強調した。

「モンロー主義のトランプ系」とは何か

日本は米国の同盟国のワンオブゼムか(官邸HPより)

「モンロー主義」とは1823年、ジェイムズ・モンロー大統領の出した第7次年次教書を指す。米国は欧州の国内政治に干渉しない代わりに、欧州諸国は西半球諸国に干渉するべきではないという米国の孤立主義を表明したものだ。

では、「トランプ系」とはどのような意味か。下地になっているのが、20世紀初頭に米国の帝国主義外交を進めたことで知られるセオドア・ルーズベルト大統領の「モンロー主義の『ルーズベルト系』」である。ルーズベルトは当時コロンビア領だったパナマ地域で大西洋と太平洋をつなぐ運河の建設に取り組み、さらに同地域をパナマ共和国として独立させ、パナマ運河の永久租借権を得た大統領だ。

『アメリカ大統領演説集』(古矢旬・三浦俊章編訳)によると、ルーズベルトは1904年の年次教書で「(南北アメリカの共和国が)国内外で正義を行う能力あるいは意志を欠き、合衆国の利益が侵害」された場合、西半球諸国に対して「国際警察力」を行使すると宣言。欧州諸国による西半球諸国への干渉を排したモンロー主義を拡大解釈し、米国による西半球諸国への介入を正当化する理論を提唱した。

今回の「トランプ系」とは、この「モンロー主義の『ルーズベルト系』」の考えを念頭に、米国による西半球諸国への介入を正当化する狙いがあるとみられる。トランプ政権は最近、「麻薬対策」の名目でベネズエラのマドゥロ政権への圧力を強め、ベネズエラ近海で麻薬密輸船とみなした船に空爆を重ね、空母打撃群の配備を進める。トランプ政権は「モンロー主義の『トランプ系』」を謳うことにより、西半球における米国の勢力圏を万全のものとするために帝国主義的外交を今後も推し進めていくという意思を明らかにしたともいえる。

米国による西半球諸国における権益確保をめぐっては、トランプ氏はこれまでもデンマーク自治領グリーンランドやパナマ運河の領有に言及し、隣国カナダを「51番目の州」にすると公言。そのトランプ氏率いる政権の「モンロー主義の『トランプ系』」宣言は、ベネズエラのみならず、西半球諸国全体をめぐって不気味な未来を予言しているようにも聞こえる。

新NSSをめぐるもう一つの注目ポイントが、トランプ政権の欧州に対する非常に辛辣な態度だ。トランプ政権は欧州に「文明消滅」の危機に直面していると警告。欧州における「西洋のアイデンティティ」を回復する必要性を訴え、「長期的には、遅くとも数十年以内に、NATO諸国の一部で非欧州系が多数派になる可能性が高い」と指摘した。こうした主張は、移民排斥を主張する欧州の極右政党の主張と重なるものだ。本誌10月号の「進行する『世界同時右派革命』」でも記したが、トランプ氏の復権後、欧米の右派運動の連携が加速している。バンス米副大統領は2月、ミュンヘン安保会議での演説で、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」擁護を念頭に、ドイツの主要政党を強烈に批判した。

今回の欧州に関する書きぶりをめぐっては、欧州が再び米国との強い絆の構築を望むのであれば、「反移民」「反グローバリズム」「反エスタブリッシュメント」を主張する欧州各国の極右政党による政権奪取を求めているようにも受け取れる。そこには、第2次世界大戦後の焦土と化した欧州において、欧州復興を支援するマーシャル・プランなどを通じ、リベラルな国際秩序の形成に取り組んできた米国の姿はどこにも見当たらない。ある米政府関係者は筆者に「欧州部分の記述こそが最も残念な箇所だった」と語った。

台湾問題への関与は「首の皮一枚」

中国に接近していくのか(2025年10月30日、釜山の金海基地で)

Photo:AFP=Jiji

西半球における帝国主義的な外交による権益確保、欧州諸国に対する厳しい態度に比べれば、アジアをめぐる書きぶりはまだ良い方かもしれない。

中国に関しては通商協議の相手国という立場に焦点を当てて記述しており、「我々は、中国に対する米国の経済的関係を再均衡(リバランス)させ、米国の経済的自立を回復させる」と強調。一方、台湾問題や南シナ海問題をめぐる紛争を抑止する意思も示し、中国を念頭に「理想的には相手を凌駕する軍事力を維持することによって、台湾をめぐる紛争を抑止することは優先事項だ」と強調した。バイデン政権当時の国家安全保障戦略が中国を「国際秩序を塗り替える意図と能力をもつ唯一の競争相手」と位置づけていたのに比べれば、中国に対する脅威認識は非常に弱い。とはいえ、トランプ氏は就任後、台湾防衛を明言するどころか、「台湾は我々のすべての半導体チップ産業を奪い取った」と厳しく批判している。これを考えれば、今回の新NSSで「米国は台湾海峡におけるいかなる一方的な現状変更も支持しない」と歴代政権の両岸政策の基本方針を踏襲し、中国による台湾侵攻を抑止する姿勢を示した点においては、トランプ政権の台湾問題への関与はかろうじて「首の皮一枚」つながったともいえる。

一方、33ページの新NSSの中で「日本」というワードが出てくるのは、5箇所だけだ。米国の同盟国の国々の一つとして並列的に記述される箇所が目立ち、日本を特別な同盟相手と称賛するような表現は見当たらない。

ただ、その中で「日本」と「韓国」をそれぞれ名指ししたうえで防衛費の増額を求めている点は特筆に値する。新NSSでは「トランプ大統領が日本や韓国などに負担の共有を増やすように主張していることを考えれば、我々はこれらの国々を強く促して防衛費を増加させ、敵対国を抑止し、第一列島線を守るために必要な新しい能力を持たせなければいけない」と強調。トランプ政権は日本に対し対国内総生産(GDP)比3.5%に防衛費を増額するように非公式に打診する一方、韓国からは対GDP比3.5%に増額する約束をすでに取り付けている。米国内における日本などへの「安保ただ乗り」批判を念頭に、トランプ政権としては、日韓両国に関して防衛費増額や米軍駐留経費の負担増を最も重視していることが改めてわかる。

さらに、新NSSは第1次政権とは異なり、トランプ氏が普段話している内容が直接的に反映されているといって良い。第1次政権当時のものは、中ロを「戦略的競争国」と認定したことに見られるように、共和党の外交政策エリートたちが深く関与して策定された。しかし、今回は、米国という国家の意思というよりも、トランプ氏個人の意思がそのまま文字になっているような印象を受ける。

とはいえ、トランプ氏の考えが世界秩序の形成に大きな影響を与える国家安全保障戦略となった以上、米国の国家意思の連続性という歴史的文脈において、トランプ政権の打ち出した「モンロー主義の『トランプ系』」の意味を考える必要があるだろう。

「アトラスのような米国はもういない」

もともと米国の外交は、孤立主義と国際主義という二つの潮流が激しくぶつかり合うことで形成されてきた。初代大統領ワシントンら建国の父たちは、欧州諸国の争いに巻き込まれることなく、新国家である米国の国力増強を図ろうと考えた。太平洋と大西洋に囲まれた米国大陸には豊かな資源があり、孤立主義的な外交路線が適していたのである。それを明確に示したのが、モンロー主義だった。

このモンロー主義で打ち出された孤立主義が完全に破られたのが、国際主義派のウィルソン大統領のもとでの米国の第1次世界大戦への参戦である。米国は勝利を収めたものの、11万人を超える犠牲者が出たことで、1930年代には再び孤立主義の風潮が強まった。だが、フランクリン・D・ルーズベルト大統領のもと、米国は真珠湾攻撃をきっかけに第2次世界大戦に参戦。米国は再び国際主義路線へと舵を切り、ルーズベルトの理念を引き継いだハリー・トルーマン大統領のもとで米国主導のリベラルな国際秩序づくりが進められていった。

しかし、米国は2001年の同時多発テロをきっかけとしたアフガニスタン戦争やイラク戦争など一連の対テロ戦争で人的・経済的に大きな犠牲を払って疲弊し、米国民の間では米国が国際紛争の解決に積極的に関与していくという国際主義派の考え方に懐疑的な見方が強まっていった。そんな最中の17年、「アメリカ・ファースト」を掲げ、米国の人的・経済的な資源を米国本土のために集中させることを訴えたトランプ氏が大統領に就任。中東地域からの米軍撤退を推し進める一方、「国境防衛」と称してメキシコ国境を越えてきた移民を厳しく取り締まり、大量送還を始めたのだ。

これには伏線はあった。

米国のジャーナリスト、ロバート・D・カプラン氏は著書『地政学の逆襲』(櫻井祐子訳)の中で、09年6月、ワシントンで行われたアフガニスタンなどをめぐる会合において、パネリストの一人で、リアリストで知られるアンドルー・ベイスビッチ米ボストン大教授がこんな指摘をした場面を象徴的に描いている。

ベイスビッチ氏は、米国がアフガニスタンなど中東地域に深くとらわれている間に、「自国の南部国境というお膝元で国家的な大失敗」が展開していると指摘。「われわれは中東であれほどの介入を行いながら、いったい何を達成したのか」「なぜその代わりにメキシコの問題に対処しないのか」と問うた。

ベイスビッチ氏の指摘は、対テロ戦争が長期化する中、米外交の主流だった国際主義に対して米国民の間で芽生えてきた懐疑心を明確にあらわしたものといえる。こうした米国民の民意がワシントンの外交政策エリートを批判してきたトランプ氏を大統領の座へと押し上げ、そのトランプ氏が新NSSにおいて新たな孤立主義を打ち出したわけだ。

新NSSの中で印象的なのが「(古代ギリシャの巨人神)アトラスのように米国が全ての世界秩序を支える日々は終わった」という表現だ。これはトランプ氏だけの考えではなく、G・W・ブッシュ政権の始めた対テロ戦争の後始末を託されたオバマ大統領も「米国は世界の警察官ではない」と繰り返していた。

国際主義派のバイデン大統領でさえも、米国だけが背負い続けてきた負担を減らすため、同盟国・友好国に負担を分かち合わせることに力を入れた。米国は今、同時多発テロをきっかけに膨張し続けた国際的な役割を縮小し、自国益をより重視する長期的な傾向に入っている。この傾向は「ポスト・トランプ時代」も続いていく公算が大きい。その意味で、今回のトランプ氏の打ち出した「モンロー主義の『トランプ系』」宣言は、米国主導で築き上げた戦後のリベラル国際秩序の終焉を宣言したということもできる。

日本を差し置き中国と接近するリスク

トランプ政権が新NSSを発表した時期とくしくも重なる形で、高市政権のもと、戦後日本の国のかたちも大きく変わろうとしている。日本が近年、これまでの専守防衛にとどまらない攻撃力を兼ね備えた軍隊をもつ「普通の国」になる動きを加速してきたのも、第1次トランプ政権以来、顕著となってきた米国の「内向き」志向の影響を受けたことが大きい。このため、日本は日米同盟を外交安全保障政策の基軸としつつも、米国だけに頼らない防衛体制を構築するため、自主防衛力の向上を図り、欧州や東南アジア諸国など同志国との連携強化を進めてきた。

しかし、米軍関係者に以前こうした話をしたところ、「では、仮に尖閣などが中国に攻められて日本有事になったときに、米国以外のどこの国が助けに来るのか?」と尋ねられたことがある。実際、この米軍関係者の指摘する通り、日本が安全保障条約を結ぶ同盟国は米国だけであり、欧州や東南アジアの同志国といくら平時に共同演習で絆を強めたとしても、いざ日本有事になったとき、これらの国々が日本を助けに駆けつけることはありえない。

つまり、日本が安全保障分野において中国とこれからも対峙し続けるのであれば、日米同盟を外交安全保障政策の基軸とし続ける以外の選択肢はないのが実情だ。

唯一の同盟国・米国が第2次世界大戦後、「西半球防衛」に専念して孤立主義の道へと進むことを打ち出した今、日本はこの試練をどう克服しようとするのか。中国との通商協議を重視するトランプ氏が、日本を差し置き、中国と接近していく可能性もある。

最も不確実性の高い相手との同盟関係を外交安保の基軸とせざるを得ないリスクへの向き合い方こそが、これからの日本の外交安全保障政策をめぐる最大の課題だといえよう。

著者プロフィール
園田耕司

園田耕司

朝日新聞政治部次長

元ワシントン特派員。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)修士課程修了。主な著書に『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵』(朝日新聞出版)、『独裁と孤立 トランプのアメリカ・ファースト』(筑摩書房)など。

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