危うし「柏崎刈羽原発」/5月の新潟県知事選に再稼働反対の「刺客」浮上

県民アンケートで賛否が二分。26年5月の県知事選で再稼働反対を掲げる「有力対抗馬」が浮上!

2026年1月号 BUSINESS [薄氷の再稼働]

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花角英世新潟県知事(本人のXより)

東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を巡り、地元・新潟県の花角英世知事(67)が容認する方針を表明した。花角氏を支える県議会与党の自民党県議団もこの方針を支持しており、再稼働の条件となっていた「地元同意」を取り付けたことで、同原発は早ければ26年1月にも約14年ぶりに再稼働を果たす。

11年3月の東日本大震災に伴う福島第一原発事故を引き起こした東電が原発事故後、初めて原発の運転を再開することになれば、日本の原発政策にとって大きな転換点となる。

花角氏は高市政権の強い働きかけを受け、原発再稼働を容認する決断を下した。だが、新潟県内の世論は再稼働を巡って賛否が二分されているのが実態だ。特に新潟市や長岡市などの県内都市部では東電に対する不信感が根強く、再稼働に反対する意見も多い。

このため、原発再稼働に反対する立憲民主党を中心にして、26年5月に予定される知事選に花角氏への対抗馬を密かに擁立する動きもある。知事周辺も「再稼働に反対する勢力が有力な候補を立てれば、花角氏が3選を果たせるかは不透明だ」と警戒を強めており、柏崎刈羽原発の行方はなお混沌としている。

「出直し知事選」を模索

柏崎刈羽原子力発電所(東京電力のHPより)

「県民の意見は、再稼働に肯定的な人と否定的な人に大きく分かれている。しかし、これまでの原発の安全対策や防災対策などの取り組みについて、正確な情報を県民に提供し、認知が上がっていけば、再稼働に対する理解も広がるものと判断した」

花角氏は25年11月21日、新潟県庁で臨時の記者会見を開き、柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働を容認する方針を正式に表明した。会見の中で花角氏は、国と東電が進めてきた原発の安全対策に対する県の検証内容を詳しく説明した上で、県民に対して再稼働を容認した判断を広く理解してもらえるように取り組む姿勢も表明した。

この再稼働容認に対する知事判断について、花角氏は自身が知事職を続けることの是非を県議会に諮る考えも示した。自民党が過半数を占める県議会は25年10月、「知事が出した結論について、熟議のうえで議会の意思を示す」と決議しており、最終的に県議会も知事の容認判断を追認して再稼働を認めるのは確実な情勢だ。

この一連の手続きで柏崎刈羽原発が再稼働するための最大のハードルだった地元同意を獲得したことになり、同原発は26年1月にも原子炉を起動し、年度内には商業運転に移行する見通しだ。福島原発事故後、東電の原発が再稼働するのは初めてであり、東日本地域では東北電力の女川原発に続く運転再開となる。

しかし、県議会に容認判断の議決を求めるという花角氏の手法には、県内で反発する声も多いようだ。花角氏は18年の知事就任時から「原発の再稼働を判断する場合、県民の信を問う」と何度も繰り返してきた。その具体的な方法については明言を避けてきたが、花角氏は「信を問う方法が責任の取り方としては最も明確で重い」と説明。この発言について、県内では住民投票や知事選を想起した住民が多かったのは確かだ。

これに対し、花角氏は再稼働容認を発表した記者会見で「制度上、知事の職を止められるのは県議会しかない」と述べ、県議会に容認判断の是非を諮る正当性を強調した。この記者会見では「信を問う」としてきた花角氏の手法が大きく変容したことに質問が集中したが、記者団を納得させるような回答はなかった。

新潟県関係者は「花角氏自身は早くから再稼働を容認する考えだった。そして実際に容認判断を下せば、最後は言葉通りに『出直し知事選』で県民の審判を仰ぐ姿勢も見せていた」と明かす。

24年8月に岸田文雄首相が退陣を表明し、自民党総裁選を経て石破茂首相が就任した直後、永田町では衆院選の早期実施観測が流れた。そうした政治情勢を踏まえ、花角氏は「衆院選の実施が決まれば、ただちに再稼働容認を表明し、衆院選と同日で出直し知事選を実施したい」と周囲に語り、選挙準備を指示したという。

だが、この花角氏の考えに待ったをかけたのが、経済産業省と自民党県議団だった。以前から経産省は自民党県議団と接触し、柏崎刈羽原発の再稼働を働きかけていた。地元の経済団体などの支援を受ける自民党県議団の間にも、地域振興のためには原発の早期再稼働が必要との見方が強く、両者の利害は一致していた。自民党県議団に根回しをしてきた経産省幹部は「花角氏が再稼働容認の是非を県民に問うため、住民投票や出直し知事選の実施を決めれば、全国の原発立地自治体にも大きな影響を与える。そうした事態は避けなければならない」と憂慮していた。

このため、県議会は25年4月、住民から出ていた原発再稼働の是非を問う県民投票案を否決。8月には政府が原発立地自治体への支援策として、原発事故時の避難路などを国が主導して整備する計画をまとめた。花角氏を取り巻く包囲網は徐々に狭まり、26年5月の知事選が迫ったこともあって出直し知事選構想は霧消した。

これに代えて花角氏が発案したのが県民アンケートだった。県民1万2千人を対象に原発再稼働の賛否を問う調査で、再稼働に賛成する意見が50%だったのに対し、反対も47%にのぼり、県民の考えが二分されていることが分かった。この調査結果の中間まとめが発表された直後、東電は新潟県の地域振興のために1000億円の資金拠出を表明。これで花角氏の外堀は完全に埋まり、再稼働容認の流れが確定的となった。

7割以上が「県民投票」を求める

経産省が柏崎刈羽原発の再稼働を急いだ背景には、高市政権の発足も影響した。高市氏は以前から原発活用に積極的な姿勢を示しており、高市氏にとって関心の高いエネルギー安全保障や脱炭素電源の確保、そして首都圏における電力の安定供給のためにも同原発を早期に再稼働させる必要があったからだ。

すでに九州電力や関西電力、四国電力の原発が再稼働している西日本地域では、電力が安定的に供給され、電気料金も東日本地域に比べて最大で25%も安い水準にある。東日本地域でも東北電力の女川原発が24年、再稼働したが、同地域全体の電気料金は高止まり傾向を示している。それだけに経産省と東電にとって、原発1基あたり年間1000億円の収支改善効果が見込める柏崎刈羽原発の早期再稼働は、料金引き下げの原資を生み出すための必須条件だった。

また、26年夏には東日本地域で再び電力需給の逼迫も予想され、電力需要が高まる夏場の電力不足を解消するためにも柏崎刈羽原発の再稼働が求められている。政府の電力広域的運営推進機関が25年10月にまとめた電力需給見通しによると、26年8月の東電管内における電力の予備率はわずか0.9%に低下すると見込まれている。電力を安定的に供給するには、ピーク時の電力需要に対する供給余力を示す予備率を最低でも3%以上は確保する必要がある。この水準を下回れば経産省が節電要請を出し、企業や消費者に電力使用を抑えるよう求める予定だ。

東電は26年にLNG(液化天然ガス)火力発電所などの大規模な改修を控えており、夏場には一気に電力不足に陥る恐れがある。そうした懸念を払拭するためにも原発の再稼働が欠かせないという事情もあった。

こうした政府の圧力を受けて難しい政治的な決断を迫られた花角氏だが、今回の容認判断を巡る影響は極めて大きい。

地元紙の新潟日報が花角氏の記者会見直後に実施した緊急アンケートによると、原発再稼働の容認判断を支持しないと答えた人が全体の8割近くに上り、花角氏の容認判断を認めないとする意見が多数を占めた。

さらに花角氏がかねて表明してきた「信を問う」のにふさわしい方法については、その7割以上が「県民投票」と答えており、花角氏が選択した「県議会による議決」を評価する回答は8%にも満たない少数にとどまった。

米山前知事の妻、人気の室井佑月氏

米山隆一衆院議員と妻の室井佑月さん(米山氏のXより)

こうした中で県議会関係者が注視しているのが26年の知事選である。花角氏の任期は26年6月9日に満了する。花角氏は知事選出馬を明らかにしていないものの、県内では「原発再稼働に対する容認判断の評価を受けるため、3選出馬は確定的だ」(自民党関係者)と見られている。

これに対し、原発再稼働に反対してきた立憲民主党の関係者は「地元県連を中心に対抗馬の擁立に向けた検討が進められている」と明かす。特に立憲民主党は24年の衆院選で、県内の5選挙区で候補者全員が当選し、追い風が吹いていると見ており、同党関係者は「原発再稼働で県内の世論が大きく割れている政治状況では、うちが有力候補を擁立すれば、現職の花角氏にも十分勝てる」と意気込む。

政界関係者によると、前知事で衆院議員の米山隆一氏らが候補にあがっているという。ただ、米山氏は週刊誌で女性問題を取り上げられて知事を辞任した経緯があり、知事選に再び立候補すれば、この問題が蒸し返される可能性もある。このため、同党内で密かに模索されているのが、米山氏の妻で作家・タレントの室井佑月氏だという。

室井氏はテレビでコメンテーターを務めるなど高い知名度を誇り、本音で語る姿は女性の支持を集めている。米山氏の選挙で室井氏が地元に応援に入ると、多くの聴衆を集めるだけでなく、演説自体もうまいという。同党関係者は「米山氏には好き嫌いがあるかもしれない。だが、室井氏が再稼働反対を訴えて出馬すれば、県民の高い支持を集めるだろう」と見ている。

前回知事選では原発反対派の市民団体会長が立候補したが、現職の花角氏は再稼働容認を明言せずに大勝を収めた。今回は花角氏が再稼働を容認した後の選挙であり、否応なく原発再稼働が最大の争点になる。そこで原発反対を掲げる知事が勝てば、柏崎刈羽原発は再び運転停止に追い込まれるのは必至だ。

原発を巡っては北海道の鈴木直道知事も北海道電力の泊原発3号機の再稼働を容認する考えを示したが、26年の新潟県知事選は今後の新潟県政だけでなく、高市政権の原発政策の帰趨を占うことにもなるだろう。

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