前号「特ダネ」再掲/五輪汚職事件/無報酬の「高橋治之」は、本当に「みなし公務員」か

「東京五輪汚職」の爆弾/無報酬理事「高橋治之」は本当に「みなし公務員」か

2026年6月号 DEEP

高野隆弁護士(高野法律事務所HPより)

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、大会組織委員会元理事の高橋治之被告(82)と共犯とされた深見和政被告(76)は、大会特別措置法の「みなし公務員」規定に基づき、受託収賄罪に問われた。これに対し深見被告の弁護団が「高橋被告にみなし公務員の規定は適用されない」として無罪を主張し、波紋が広がっている。

この汚職事件は、東京五輪などが開催された翌年の2022年7月、東京地検特捜部が強制捜査に乗り出し、計15人を起訴した。

起訴状では、高橋被告は5社からの依頼でスポンサー契約締結を後押しするなどの便宜を図り、計約2億円の賄賂をもらったとされている。高橋被告の電通時代の後輩で同社局長などを務めた深見被告は5社のうちKADOKAWAと大広の案件に関わり、両社からの賄賂計約9千万円が深見被告経営のコンサルティング会社「コモンズ2」の口座に入金されていたことから、共犯とされた。

昨年12月から始まった深見被告の公判で、弁護団は①組織委員会は民間団体で、役職員約7千人(ピーク時)の50%超は電通などの民間企業から、約20%は東京都から、約2%は国からの各出向者、②出向者の給与を支払ったのは派遣元の民間企業、都、国、③高橋被告のような非常勤の一般理事は無報酬などの前提事実を挙げた。

また高橋被告が理事に就いて約1年後の2015年6月に制定された大会特措法の目的は、五輪担当相を新設することや国の職員を出向させ、みなし公務員の規定で収賄罪などの適用を可能にすることであり「特措法の制定後も、派遣元の民間企業が支払う役職員の給与は賄賂に当たらないと考えられていた」と指摘した。

そのうえで「無報酬の高橋被告は生活の糧を得るため、スポーツマーケティングの第一人者としての仕事を継続して報酬を得ただけで、派遣元企業から給与を受け取った役職員と同様、みなし公務員の規定は適用されず、報酬は賄賂に当たらない」と主張した。

弁護団を束ねる主任弁護人は高野隆弁護士(69)。最近では、手術後の準強制わいせつ罪に問われた医師や覚醒剤密輸で起訴されたラトビア人らの無罪を確定させたほか、国外逃亡した日産自動車のカルロス・ゴーン元会長も弁護した。被告が起訴事実を否認した裁判員裁判での無罪獲得率は5割を超える。東京法廷技術アカデミーの代表理事も務め「刑事弁護のレジェンド」と呼ばれている。

刑事弁護に詳しい東京都内の弁護士は、次のように解説する。

そもそも特措法28条の「役職員は刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」とする、みなし公務員の規定は、国の職員派遣や国によるその給与の支給、その職員は国家公務員共済や退職手当で不利益を被らないことなどとともに「第四章 大会の円滑な準備及び運営のための支援措置等」の「第三節 組織委員会への国の職員の派遣等」に置かれている。

特措法の立法目的や民間企業が出向者の給与を負担し、それが賄賂に当たらないことも踏まえれば、みなし公務員の規定は、国から派遣された職員を対象にしたもので、組織委の役職員全体が対象ではないと解釈すべきだ。今年9〜10月に開かれる愛知・名古屋アジア競技大会・パラアジア競技大会でも特措法は制定されたものの、国は大会組織委員会に職員を派遣しないため、みなし公務員の規定が特措法にないこともそれを裏付けている。

深見被告以外の弁護団はこの法解釈の誤りに気付かず、高橋、深見両氏とKADOKAWAの角川歴彦元会長以外の被告12人は既に有罪が確定しているという。

「高野氏らの主張が裁判所で認められれば、汚職の構図は崩壊する。深見被告と公判が続いている高橋被告、角川被告の3人だけでなく有罪の12人も再審請求すれば無罪。東京地検次席検事としてこの事件の捜査を指揮し、現法務事務次官の森本宏氏は、次の次の検事総長を棒に振るかもしれない」と大手メディアの司法記者は見ている。

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