2026年9月号
BUSINESS
by
高橋克英
(マリブジャパン代表)

パークハイアットニセコ HANAZONOレジデンス
株式や不動産が高騰する「資産効果」により、グローバルな富裕層の厚みが増している。スイスUBSの「グローバル・ウェルス・レポート2026」によると、日本の富裕層は、前年比17万人増え290万人、アメリカ、中国本土に次ぐ世界3位だ。その勢いが続いており、AI半導体株など利益確定売りにより「爆上げAI株長者」や「キオクシア長者」が続出。彼ら彼女らの「戦利金」は豪華海外旅行や高級外車、タワマンや高級低層マンション、別荘の購入…そんな中、超富裕層が目を向ける究極の物件がある。それが、世界中の主要都市やリゾート地に立地する高級ブランドを冠した超富裕層向けの住まい「ブランデッド・レジデンス」だ。

ウォルドーフ・アストリア・レジデンス東京日本橋
世界的なラグジュアリーブランドホテルに加え、ポルシェやアストンマーティン、ベントレー、ランボルギーニなどのスポーツカーメーカー、ブルガリやアルマーニ、フェンディ、エトロといったファッションブランドが、レジデンス事業に進出。圧倒的なブランド力、独創的なデザインと希少性、高品質とサービスに加え、完璧なセキュリティとプライバシーが確保される「トロフィー(成功の証)レジデンス」として住まいはもとより投資物件としても海外セレブに人気だ。
米マイアミのビーチフロントに2028年開設予定の「ベントレーレジデンス・マイアミ」は、大西洋とマイアミの街並みを一望できる61階建て全216戸。「成功の証」は、特許を取得した4台の油圧式エレベーターを使って車に乗ったまま居室に移動できること。最上階ペントハウスは4ベッドルーム、7バスルームに加え、屋内プール、屋外プール、テラス、屋外キッチンなどを完備。地上から専用の車用エレベーターで61階へ直行でき、室内に設けられたガラス張りのガレージには最大7台駐車可能だ。販売価格は、580万ドル(約9億円)からでペントハウスは3750万ドル(約60億円)という。こうしたブランデッド・レジデンスは、通常価格より3~4割高く販売できるため不動産デベロッパーの収益性が高く、高級ブランド企業側は顧客の囲い込み、ライセンス収入を獲得できる。超富裕層は希少性の高い資産を手に入れるだけでなく、資産運用の機会にも恵まれる。

サヴィルズ・ジャパンの「日本のブランディッド レジデンス市場」(24年6月)によると、ブランデッド・レジデンスが、住宅市場に本格的に登場したのは1980年代になってから。従来はニューヨークやマイアミなど米国が中心であったが、現在はドバイ、プーケット、ロンドン、ロス・カボスなどリゾート地や世界有数の都市を中心に広がっている。23年央には、世界中で690棟が完成しており、2030年までに600以上の計画が進行中である。
ブランデッド・レジデンスのうち、フォーシーズンズやリッツ・カールトンなど世界的なラグジュアリーホテルの名前を冠したレジデンスは「ホテル・ブランデッド・レジデンス」と呼ばれる。その多くがホテルに併設され、レジデンスに住みながらスパ、フィットネスジムなどホテルの施設やルームサービスを利用できる。分譲レジデンスの場合、所有者自身が居室を利用するだけでなく、居室をホテル事業者に貸し出し、ホテル客室として使われる場合もある。
昨今、日本でも「ホテル・ブランデッド・レジデンス」が広がっている。2007年に東京ミッドタウン内に開業した「ザ・パーク・レジデンシィズ・アット・ザ・リッツ・カールトン東京」が先駆け。隣接する「ザ・リッツ・カールトン東京」のホテルシェフの出張サービス、ハウス・アカウント(後払い)サービス、コンシェルジュサービスが受けられる。
2027年には、ヒルトンの最上級ラグジュアリーブランドホテル名を冠した「ウォルドーフ・アストリア・レジデンス東京日本橋」が開業予定だ。高さ284mの日本橋野村三井タワーの最高層48~51階に全71戸を設ける。24時間対応のコンシェルジュが常駐し、居住者専用の共用施設として50階にキッチン付きパーティーラウンジ、マルチルームを備えたテラス付きロビーラウンジが利用できる。ルームサービスや出張シェフ・ケータリングサービスなど、同じ建物に入る「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」と連携したサービスも受けられる。

ベントレーレジデンス・マイアミ
賃貸も分譲もあるレジデンスでは、同棟内にあるホテル「アンダース東京」のサービスを利用できる「虎ノ門ヒルズレジデンス」、同じく棟内にある「アマン東京」のサービスが利用できる「麻布台ヒルズ森JPタワーアマンレジデンス東京」、「ジャヌ東京ホテル」のサービスが利用できる「麻布台ヒルズレジデンス A」などがある。
ちなみに麻布台ヒルズにあるアマンレジデンス東京のペントハウスは、坪単価4千万円を大きく超える1戸200億円で販売され、91戸全てが完売したと報じられている。
分譲レジデンスが主となるリゾート地でも「ホテル・ブランデッド・レジデンス」が増えている。2020年に開業したパークハイアットニセコHANAZONOレジデンスは113戸あるものの、滅多に売却物件が「表」に出ることがなく、出物が瞬間蒸発するプラチナ不動産だ。実際、開業当初、温泉テラス付きの1ベットルーム(102.34㎡・約30.95坪)約2億5千万円(808万円/坪)で販売された物件が、足元の流通市場ではほぼ2倍の4億9千万円(1583万円/坪)で売買されている。キャピタルゲインが得られる物件も多くあるため富裕層の関心も高く、開発ラッシュが続いている。
沖縄県恩納村の米軍恩納通信所跡地に建設中の「フォーシーズンズ プライベートレジデンス 沖縄」(分譲レジデンス)は、2027年の開業に向けて既に特定顧客向けの販売活動を開始。このほか29年に開業予定の「シックスセンシズ妙高」の上層階にはシックスセンシズのブランドを冠したレジデンスを21戸設ける計画だ。30年には専用温泉付きの31戸のレジデンスを提供する「アマンニセコ」、同年には「アナンタラ軽井沢リトリート」が、ヴィラの一部をブランデッド・レジデンスとして提供する構想だ。
こうしたブランデッド・レジデンスは、日本の不動産仲介会社の中で最多の富裕層リストを持つとされる三井不動産リアルティなどから、資産背景はもとより社会的地位のある賓客にだけ物件案内が送られ、案内会や個別相談を経て成約に至る。
東京都心や国内リゾート地の不動産価格はニューヨークやロンドン、香港などの海外主要都市・高級リゾート地と比べると依然割安だ。国内「ホテル・ブランデッド・レジデンス」は、富裕層の飽くなき欲望とニーズを満たす工夫を凝らし、さらなる成長を遂げそうだ。