2026年9月号 DEEP

徳重社長は「プレゼンテーションの天才」と一部で言われている
Photo:Jiji
7月28日に発生した「令和8年熊本地震」で被災地に素早くドローンを飛ばして映像を集め、救助や復旧活動に貢献していることで世間から注目されている企業がある。テラドローン(本社・東京都渋谷区、徳重徹社長)だ。同社の活動は災害支援への貢献だけではない。2026年3月に防衛産業への参入を表明して以来、素早い動きで「実績」を積み上げようとしている。
その動きは目覚ましい。5月8日には防衛装備庁が実施した一般競争入札で、「国産ドローン『モジュール型UAV(汎用型)教育用』300式を落札し、総額1億1543万4000円の製造請負契約を締結した」と発表。続けて6月15日には、ウクライナの防衛ドローン企業、ウィニーラボとアメージング・ドローンズの2社を買収し、子会社化すると発表した。両社は攻撃ドローンを撃ち落とす迎撃ドローンを開発しており、ロシアとの戦闘でも迎撃の実績があるという。
日本の防衛装備庁は7月15日、テラドローンに対して、現在開発を急ピッチで進める国産迎撃ドローンの実証試験への参入を認めた。これを受けて、テラドローンは「防衛領域への本格参入から約4カ月という短期間で選定されたことは、ウクライナにおける実戦での迎撃成功実績に裏付けられた技術力と、国内において生産から教育までを一貫してサポートできる当社の事業基盤が評価された結果であると考えております」と説明している。
さらに同社は7月21日、人工知能(AI)で自律飛行ができる迎撃ドローンを開発したと発表、ウクライナでロシアが使う攻撃ドローン「ヘシャド」の迎撃にも成功したという。
テラドローンは、EVなどを手掛けるテラモーターズから独立する形で16年に設立。テラモーターズの創業者は、テラドローンの社長を務める徳重氏である。素早い動きと果敢な経営判断は、徳重氏のモットーとするところだ。
徳重氏はよく周辺に「私は『クレージー』だ」と言うそうだ。そこには「人と違ったことをする異端児」という意味が込められている。
徳重氏は1994年に九州大学を卒業後、住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)に入り、経営企画部に在籍するなどエリートコースを歩んでいた。しかし、「『第二のソニーを作る』と言って会社を辞め、シリコンバレーで5年近く修行して起業した」と、氏の知人は言う。
今の徳重氏は世界中に人脈を持ち、一気呵成の攻めの経営を得意とする。一方で、動きが早い反面、「仕事の進め方の一部に実直かつ丁寧ではない面があるため、それが杜撰な管理につながっているのではないか」との指摘も業界の一部からは出ている。それを象徴するかのような事件が起こった。
テラドローンは25年12月9日、インドネシアのジャカルタで現地法人が入居するビルで火災を発生させた。22人が死亡、15人が負傷した。現地からの報道などによると、火災の原因は、廃棄予定の電池からの発火だという。地元警察は、現地法人社長のマイケル・ウィスヌ・ワルダナ容疑者を過失致死などの容疑で逮捕した。
ジャカルタ地裁は26年5月21日、ワルダナ被告に過失致死罪で懲役1年4カ月の実刑判決を下した。職場の安全基準の順守に関して組織的かつ重大な問題があったなどと認定された。
そもそも国防に関わる事業を展開する企業には高い水準の職場・安全管理が求められるはずだ。テラドローンは、そうした意識が欠如していたのではないかとの批判を受けても仕方ないだろう。
テラドローンについては、「週刊文春」が24年12月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から17年度に、労働時間などをごまかして助成金約2900万円を不適切な処理で受給していたと報じた。同社はその指摘を認め、助成金をすでに返却したという。火災同様これも徳重氏の監督責任が問われる案件と言えるだろう。
テラドローンは7月27日、ドローン向けのバッテリーパックの国内量産体制を構築すると発表した。ドローン向けバッテリーは中国や台湾が強いとされるが、防衛装備庁向け事業を強化するにあたって国内生産を強化する狙いがあるようだ。もっともバッテリーパックを構成するセルをどこから購入するかは現時点では明らかになっていない。
テラドローンは「国産化を強力に推進する日本の政府、防衛省の方針に沿う形で、早期に重要部品である電池の国産化に目途を立てる」と説明している。この文面からは、現時点においてテラドローンの電池は国産ではないことが窺える。
徳重氏は「プレゼンテーションの天才」だと日本の一部のメディアの中では言われている。即ち、経営者として自分が追い求める理想と現実に乖離があるケースも多いということだろう。こうした社風の会社と付き合うからには防衛省には自分たちの眼で直接、調達体制、生産工程などを十分にチェックし続けることが求められるのではないか。
さらに防衛省は別のリスクを抱える可能性がある。テラドローンの母体となったテラモーターズが23年11月15日、ベンチャーキャピタルのペガサス・テック・ベンチャーズなどから出資を受けると発表した案件だ。
ペガサス・テック・ベンチャーズの前身は11年に設立されたフェノックス・ベンチャーキャピタル。同社は、現在ペガサスのCEOを務めるアニス・ウッザーマン氏と、ベラルーシのフェノックスグローバルグループ会長であるヴィタリー・アルブーゾフ氏が共同経営で立ち上げた。フェノックスはベラルーシで自動車部品事業を手掛けているが、ロシア向けに武器を供給しているとの情報もあり、アルブーゾフ氏は、ロシアのプーチン大統領と協力関係にあるルカシェンコ大統領の金庫番の一人といわれている。
15年にはフェノックス・ベンチャーキャピタル・ジャパンが設立された。日本の法人登記簿によると、ウッザーマン氏とアルブーゾフ氏が取締役に名を連ねていた。しかし17年にアルブーゾフ氏が脱税容疑で逮捕された後に、氏の名前が登記簿上から消え、19年に社名が現在のペガサス・テック・ベンチャーズに変わった。
「ウッザーマン氏とアルブーゾフ氏は非常に親しい」とシリコンバレーの状況に詳しい金融筋は見ている。そのウッザーマン氏が率いるベンチャーキャピタルからテラモーターズは出資を受けた。徳重氏の金脈と人脈が日本の安全保障上、問題がないか、防衛省は調べる必要があるのではないか。