寺前 秀一(高崎経済大学教授、観光学博士)

観光をテコに内需拡大を

2009年6月号 連載 [如是我聞]
by W

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寺前 秀一

寺前 秀一(てらまえ・しゅういち)

高崎経済大学教授(観光学博士)

1949年石川県生まれ。72年東京大学法学部卒業、運輸省入省。98年国土庁大臣官房審議官、2001年国土交通省総合政策局情報管理部長、気象庁次長を経て、02年金沢学院大学大学院非常勤講師。03年日本観光協会理事長。06年高崎経済大学地域政策学部観光政策学科教授。

写真/平尾秀明

「世界同時不況でインバウンド(訪日外客数)が激減しています。昨年8月から8カ月連続で減少し、今年1月~3月の平均は前年より3割も減りました。政府は昨秋、観光庁を発足させ、観光立国の名の下に『2010年に1千万人達成』の大目標を掲げましたが、その前途に赤信号が灯っています」

「最大の原因は例年、訪日外客数の1位、2位を占める韓国と台湾の経済失速。ところが、そのような中でも中国は顕著な伸びを示しています。今年に入って台湾を抜き、3月の中国からの訪日数は10万1100人と1位の韓国(10万8400人)に肉薄しています」

「こうした趨勢を受けて、政府は年度末、景気浮揚策の一環として中国3市(北京、上海、広州)の年収25万元以上の富裕層限定で観光ビザの解禁を打ち出しました。施行される7月以降は観光客が3割増えるとの見通しも出ています」

「実際、この10年の経済成長で中国の出国者数は1999年の920万人から08年には4600万人へと爆発的に増えました。このまま順調に経済発展を続け、人口の1割が外に出るようになれば、現在の3~4倍もの人々が隣国日本にやって来ることは誰の目にも明らかです。観光庁がめざす『20年に2千万人』の目標達成もあながち夢ではなくなります」

「その時に高付加価値のコンテンツを示せるかどうかが日本の重要課題です。温泉観光で言うならば、日本酒や日本料理、陶磁器、旅館も含めた総合文化としての奥深さをもっと売り込んでもいい。我が国にはアジアの先進民主主義国として優れた文化や芸術、産業の魅力が十分にあるのですから、各地の切磋琢磨によってブランド力を高めていくべきです」

「短期的な景気浮揚が目的ならば、インバウンド刺激策よりも内需拡大のほうがはるかに有効です。外貨獲得のため外客誘致に力を入れる時代は終わりました。人口減少社会の日本の経済運営は消費主導になると予測され、旧来型の公共投資より、観光をテコにした消費喚起こそが景気の起爆剤となるでしょう。高速道路料金の値下げで行楽客が急増したのはその好例です」

「日本のインバウンドは世界30位で国力の割に低いとされますが、実は北海道や東北が観光王国であることをご存じでしょうか。ベルギーには年間700万人、スイスには790万人の外客が訪れるのに、北海道は59万人で少ないといわれますが、道外の国内客は実に660万人も来ています。東北も域外宿泊者数は1千万人を超えていると推測されます」

「日本の観光産業は激務のうえに収益性に乏しく、地盤沈下が指摘される。一方でここ数年、JTBなど観光業界の就職人気が高まっています。日本の観光地の潜在力を最大限に生かし、若者が夢をもてる産業に育てていく必要があります」

   

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