2010年7月号 BUSINESS
人気アイドルグループ「嵐」の櫻井翔の父親が、総務省総合通信基盤局の桜井俊局長であることはよく知られている。KDDIは携帯電話auのCMに「嵐」を起用しているが、同局は通信事業を所管する部署だけに、「露骨なゴマすり」と危惧する声がある。桜井局長は「親の七光り」を否定するのに懸命だが、そのKDDIに天下った元上司がとんだ“顰蹙”メールを発信して、同社の慎みのなさを暴露してしまった。
この元上司とは、KDDIソリューション事業本部顧問の鬼頭達男理事。73年に郵政省に入省、電波部長、総務省大臣官房技術総括審議官を務め、退官後の08年6月に現職に就いた。その彼から後輩の桜井局長、吉田靖電波部長、基幹通信課課長、同課長補佐に切り口上の同報通信メールが届いたのは5月10日である。
メールの本来の宛先は地域WiMAX推進協議会。WiMAXは高速無線通信の標準規格で、無線LANより広いエリアで利用でき、KDDI系のUQコミュニケーションズが09年2月から東名阪の大都市圏を中心に「全国バンド」のサービスを開始している。地方ではデジタル・デバイト解消策として「地域バンド」があり、CATV事業者など42社に免許が与えられた。その地域事業者団体が同協議会なのだ。鬼頭理事は会員全員に同内容のメールを送っているから、公開抗議文と言っていい。
何が鬼頭理事に啖呵を切らせたのか。地域バンドの泣き所は、UQ向け市販端末が使えず、地域事業者間でローミングもできないこと。普及が進まないので、共用CSN(接続サービスネットワーク)で穴を埋めることになった。3月に協議会がシステム業者4社を呼んで説明会を開き、日本通信が3分の2の支持を得た。同社がプレスリリースでそれを「協議会からの推奨」としたため、鬼頭理事は「中立的な立場の協議会が特定の私企業を『推奨』するとの行動は(中略)存立基盤を危うくすらしかねません」とねじこんだ。
ささいな言葉尻の問題に見えてそうではない。関係者が言うように、説明会は競争入札の体裁に近く、会員である事業者が票を投じる形式だった。それでも「推奨」の一語にいきりたつのは、実はKDDIも独自の共用CSNを地域事業者に売り込んでいるからだ。ただし、その構成は協議会が採る米国方式と異なり、認証装置などをセットにしているので参加できなかった。加えて日本通信の共用CSNがKDDIより格段に安く、収益源がとらぬタヌキの皮算用になりかけて焦ったのだ。
無理もない。地域WiMAXに手を挙げたCATV業者は、どこも視聴者数が伸び悩んで経営難、キャッシュフローに余裕のあるところはわずかだ。それが障害になって普及が進まないのでは、UQに周波数免許を与えた総務省も立つ瀬がない。
鬼頭メールが協議会の中立に名を借りて他業者を排除し、KDDIのエゴを押しつけていることは見え見え。しかも「総務省御当局におかれましても、協議会の運営につきましてより一層のご指導、ご助言を賜りますことを真摯にお願いする次第」とあるメールの末尾は、後輩への“威嚇”に聞こえる。
困った協議会と総務省が協議、日本通信に「推奨」の一語を消させて事を収めたが、本誌は鬼頭理事に直接質問状を送った。天下り官僚OBによる現役への圧力ではないかという質問に「総務省は協議会のオブザーバに位置づけられており、会議にも適宜参加されていることから、会員各位に加えて、オブザーバにも広く当社の意見を伝えたものです」「本人の見識、経験などから、当社に有用な人材と判断したものであり、天下りではありません」との回答。
本人ではなく広報部任せである。自分は高飛車なメールを送るくせに何たる臆病! 典型的な天下り役人の性癖だ。そういえば、「嵐」のヒット曲「truth」にこんな歌詞がある。
それはまるで嘘のように
消える真実……