金融機関の「暴力団排除」はどこまで進んだか

2011年4月号 BUSINESS

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「2010年中に銀行など金融機関が暴力団排除条項に基づいて取引を停止したのは25件」

これは公表された数字ではない。警視庁関係者が明かした数字だ。

金融界は、政府が07年6月に策定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申し合わせ)等を踏まえ、融資・預金の両面から暴力団等の反社会的勢力との「手切れ」を進めている。

全国銀行協会は、08年11月に融資に関する暴力団排除条項の雛形を作成している。これを基に各行が①暴力団、②暴力団員、③暴力団準構成員、④暴力団関係企業、⑤総会屋等、社会運動等標榜ゴロまたは特殊知能暴力集団等、⑥その他前記①~⑤に準ずる者――に対する融資を行わないとする条項を融資契約書・約款の中に加え、反社会的勢力との取引排除を進めてきた。

さらに、預金面でも、同じく全銀協が09年9月に雛形を作成。10年2月以降、メガバンクを皮切りに各金融機関が預金約款等の中に暴力団排除条項を加え始めた。その内容は、普通預金はもとより、定期預金から当座預金、貸金庫に至るまで、新規の契約は行わないうえに、既存の預金者や貸金庫の借主が反社会的勢力であることが判明した場合には、契約を解除するというもの。

「すでに、ほぼ全ての銀行が預金約款に暴力団排除条項を盛り込んだ」(全銀協広報)という。

冒頭に紹介した件数は、警視庁管内(東京都内)で、預金面での暴力団排除を行った1年目の成果が25件だったことを示す。内訳は、新規契約を断ったのが6件、既存の契約を解除したのが19件だ。

既存契約の中には、都内のテキヤ系暴力団の大物組長の預金6億円を解約したケースもあったという。ちなみに、この解約された預金は別の金融機関に持ち込まれ、従来からの預金と合わせ、その預金残高は17億円になっている。しかし、この17億円についても、近く解約させることになりそうだ。

ある警察関係者は、「こうした反社会的勢力の預金は徐々に締め出されて、民族系金融機関に流れ込むことになるだろう。最終的に民族系金融機関が温床となる可能性がある」と警戒する。

全国に約3万8千人の暴力団構成員がいることを考えると、警視庁管内とはいえ、預金面での暴力団排除件数が1年間に25件というのは、あまりにも少ないと映る。しかし、普通預金は公共料金の引き落としなど、生活インフラの側面が強く、取引を断られると、暴力団員といえども不便このうえない。

金融機関サイドとしても、①どのような場合が反社会的勢力に該当するのか明確ではない、②訴訟になった場合に、反社会的勢力であることを立証することが困難なケースが多い、③契約上の義務を履行しているにもかかわらず、属性要件(=反社会的勢力であるということ)だけを理由に契約解除を認める判例が確立していない――などの理由により、反社会的勢力との取引を拒むことに躊躇する場合もある。実際に、人権上の問題がないのかという点では、曖昧な部分が多いのも事実だ。

たとえば、ある銀行関係者は普通預金を断ろうとしたら、口座を設けに来た暴力団員に「普通預金は生活に欠かせない。オレたちは水も飲むな、電気もつけるなというのかと怒鳴られた」という。また、「子どもの学校の授業料の引き落としができなくなる。人権問題だ」と凄まれた例もあるという。

こうした側面を補完しているのが、各都道府県における「暴力団排除条例」だ(本誌前号の「『みかじめ料』を出したら市民も罰」を参照)。

「金融機関も都道府県の暴力団排除条例と連携しながら、暴力団との取引を排除すべく努力していく」と銀行関係者は言う。

とはいえ、今のところは暴力団の一般組員に対して、生活インフラに近い普通預金の契約を解除するような動きが相次いでいるわけではなく、さしあたっては組長など幹部の巨額な預金の解約を進めていくことが中心になっているようだ。

金融機関の暴力団排除は、どのような結果を生み出すのか、予断を許さない。

   

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