モバゲーめぐる「タレこみ」で公取委誤算

2011年8月号 DEEP

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携帯電話向けゲームで10代ユーザーの人気を呼び、飛ぶ鳥を落とす勢いの東証1部上場企業、ディー・エヌ・エー(DeNA)に対し、公正取引委員会は6月9日、独占禁止法に基づく排除措置命令を発令した。

DeNAが運営するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「モバゲー」(Mobage)にゲームを提供している開発会社に圧力をかけ、ライバルSNSの運営会社、グリー(東証1部)との取引を不当に妨害したというもの。DeNAは昨年12月にも公取委の立ち入り検査を受けており、今回の命令を「真摯に受け止める」としている。

ところが、裏では公取委の事前リークをめぐってゴタゴタがあったようだ。新聞各紙で排除措置が報じられたのは命令当日。「通常なら命令の約2週間前に公取委が当該企業に事前通知をする。その段階で公取委からマスコミ各社へリークされ、『排除命令へ』という予告記事が出るはずだが……」と独禁法に詳しい弁護士は首を傾げる。

全国紙の社会部記者によると、「今回も公取委のリークでマスコミ各社が5月の大型連休明け頃に一斉に裏取りに走った。DeNAからは返答なし。しばらくして公取委から、あの件はちょっと仕切り直しと言われ、結局、排除命令が出る当日まで待たされた」という。

創業以来12年間、トップの座にあった南場智子社長(49)が夫の病気を理由に5月に退任を発表(正式退任は6月25日、同日付で非常勤取締役に就任。後任社長は守安功氏)、社長交代の時期だったことも微妙に影響したと思われる。

ある関係者は「DeNAにはまだ事前通知が届いていないのに、マスコミが執拗に問い合わせるので、前段階でリークするのはどうかとDeNA側が公取委に申し入れたようだ。それが影響したのではないか」と打ち明ける。当局が早漏れリークで社会部系の記者クラブを味方につけていく好例にも見える。

さらに不可解なのは、当初報じられたのとは別の違反容疑で排除命令が出たこと。昨年12月の検査の段階では、大手紙は不公正取引の中の「拘束条件付き取引」の疑いと報じていた。実際は「競争者に対する取引妨害」にすり替わったが、大手紙はこの不整合を説明していない。

今回のケースは「グリーにゲームを提供する開発会社をモバゲーから排除する」としたことが問題だった。これを「拘束条件付き取引」とみなすには、市場での競争が減殺されている(不活発になる)ことが前提になる。つまり、相当数のゲーム開発会社がモバゲーに取り込まれて、グリーのビジネスに支障が出たことを証明する必要があるのだ。

DeNAが圧力をかけたのは昨年7月当時の取引先約150社のうちの40社。40社すべてがグリーとの取引を中止したり拒絶したとしても、その後のグリーのビジネスに影響があったとは思えないほど、同社のゲームタイトル数は急増している。

携帯の公式サイトでゲームや着メロなどのコンテンツを提供する業者が、人気のモバゲーやグリーへの提供に一斉に走っているからで、昨夏は40社ほどだったグリーの取引先企業は年末までに240社を超えた。外部からのゲーム調達はDeNAより半年も出遅れたグリーだが、今年3月末のタイトル数は約800本とモバゲーと拮抗する水準である。

「拘束条件付き取引」では無理とみて、「取引妨害」に切り替えたと見る向きもある。前出の弁護士はこう話す。「取引妨害は、妨害と言える行為があれば何でも違法にできる玉虫色の条項。法曹界では適用に異を唱える人も少なくない。あくまで想像だが、拘束条件付き取引でいくべき事案だったが、実質的には要件を満たさないか、あるいはグリーのビジネスに支障が生じた事実が証拠上認定できなかったのではないか。競争減殺が立証できないから、取引妨害でいくというのはかなり無理筋だ」

複数の業界関係者によると、公取委の捜査はグリー陣営からの“タレこみ”がきっかけだという。その情報に乗せられて検査に入ったものの、この世界に不慣れな公取委はアテが外れた。しかしネット業界の成長株に切り込んだ手前、落とし前をつけざるを得ず、苦肉の策を選んだのか。そんな穿った見方もある。

   

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