2012年11月号 BUSINESS
10月はソフトバンクの孫正義社長の独壇場に見えた。1日に携帯電話国内4位のイー・アクセスを1800億円(有利子負債引き受け分を含め3650億円)で買収すると発表、累計契約数3427万件と2位のKDDI(3588件)と僅差になった。11日には、米国第3位のスプリント・ネクステル、さらに第5位のメトロPCSコミュニケーションズも買収しようと交渉入りしたことを発表して、世界を驚かせた。1兆~2兆円の巨額買収を嫌気して、12日にはソフトバンク株が一時17%も急落するおまけまでついた。
米2社の買収が実現すれば、ソフトバンクは売上高で世界3位になるが、総務省が進めてきた通信の競争促進により割高な電話料金を引き下げる政策が結局、「寡占」に収斂したことを端なくも示した。業界関係者は「桜井俊・前総合通信基盤局長(現情報通信国際戦略局長)の“無為”が電波割り当てを出し抜かれる隙を作り、ドコモ、au、ソフトバンクの3強の超過利潤に斬り込めなかったのは明らかに失敗」と批判する。
競争政策で一本杉のように残ったのがMVNO(仮想移動体通信事業者)。キャリアに接続料を払って基地局網を借り、多様で廉価なサービスを提供する仕組みだが、滔々たる「寡占」の流れに押しつぶされるのではないかと危惧されている。
基盤局料金サービス課が10月中に「モバイル接続料算定に係る研究会」をスタートさせようとしているからだ。接続料の算定は本来、情報通信審議会の接続委員会で議論すべきだが、この研究会は基盤局長の私的諮問機関で非公開。10月23日に初会合を開き、3週連続で開いて6回で結論の予定というから、年内決着へやけに急いでいる。
背景にMVNOの雄、日本通信とドコモの民事訴訟がある。両社は07年に大臣裁定に従い、接続料の算定方式で合意したが、昨年、ドコモ側がこの方式を一方的に変更して1.5倍以上値上げする布石を打ったため対立が再燃。総務省の仲介案をドコモが蹴って、4月に契約違反の民事訴訟に持ち込まれた。
ドコモにはMVNOが目の上のタンコブ。イー・アクセスの携帯イー・モバイルが行き詰ったのも、キャリアの収益を減らすMVNOが元凶だったと見ているようだ。しかもスマートフォンの普及で3.9世代のLTE導入を急がざるをえなくなり、第二種通信事業者入りするソフトバンクを含めキャリア3社の利害が「MVNO排除」で一致するようになった。
総務省サイドが研究会の結論を急ぐのは、日本通信対ドコモの訴訟の判決が出る前に、現行の算定方式を変更して既成事実化しようとしているからではないか。研究会は業者を個別に呼んでヒアリングを行うというが、「MVNO業者には悪いけど、実は結論はもう決まっている」と総務省内では囁かれている。
ヒアリングの検討項目は、①設備区分別算定、②算定根拠間の数値の差異、③営業費の算入、④自己資本利益率の算定、⑤データ接続料の需要で、ガイドラインの骨格がすでに固まっていることを匂わせる。キャリアに有利なガイドラインを非公開で作成し、年末のドサクサに紛れて強行しようとしているとしたら、総務省はMVNOはおろか、競争政策自体を扼殺するにひとしい。警戒せよ!