エース交易の創業者が掘った墓穴

ハゲタカに持ち株を高値で買い取らせ、7億円の借金を帳消しにする悪だくみが瓦解。

2012年11月号 BUSINESS

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エース交易本社(東京・渋谷)と創業者の榊原秀雄氏

エース交易(ジャスダック上場)の創業者、榊原秀雄氏(81)が自己破産に追い込まれそうだ。

10月初め、同社の代表者が連名で、榊原氏が返済を怠った約7億円の一括返済を求める内容証明を送りつけたからだ。1週間以内に返さない場合、榊原氏が担保として差し入れたエース交易株(時価約5億円)と田園調布の一等地にある邸宅(時価約3億円)への担保権を行使する構えだ。榊原氏の自宅には、先に大手銀行が4億円強の根抵当権を設定しており、7億円全額の支払いはほとんど不可能。エース交易の「ゴッドファーザー」と崇められた創業者は窮地を抜け出せるか――。

発端は、前号(「ハゲタカの餌食」エース交易社長を解任)で報じたとおり、4月にエース交易が米投資会社タイガートラストグループと資本業務提携を結んだことに遡る。エースが発行する新株をタイガーが約8億円で買い取り、筆頭株主になるという合意のもと、タイガーはジョン・フー会長以下4人の取締役を送り込み、牧田栄次社長以下の生え抜き役員を制圧した。経営権を握った会長派は、タイガーの子会社の株式を、十分な資産査定をしないまま約16億円で買い取ることを要求。「特別背任の疑いがある」と抵抗する社長派と衝突した。

するとハゲタカの親玉、「エボリューション・キャピタル」のマイケル・ラーチ代表が来日し、榊原氏と結んだ「秘密契約」を暴露した。そこには、榊原氏が保有するエース株を時価の約3倍(1株当たり710円)で買い取る代わりに経営権を譲り渡し、エースがタイガーの子会社の株式を買い取る資金還流により、榊原氏の借金を帳消しにするスキームが描かれていた。

怒り心頭の「ハゲタカ」

9月6日、創業者と結託したハゲタカの策謀に怒った牧田社長が資本業務提携の解消と外部専門家による第三者調査委員会の設置を公表すると、フー会長が牧田社長の解職を発表するという稀に見る泥仕合となり、当局が事情聴取に乗り出した。

9月24日、エースは日米役員間に誤解があり「相互に謝罪した」と発表。牧田社長は再任され、外国人役員1名が辞任することにより、会長派と社長派の取締役を同数とする「手打ち」が成立した。とはいえ、食らいついたハゲタカがタダで引き下がるはずはないだろう。

ラーチ代表、フー会長は米プリンストン大学出身の俊英で、日本でのレピュテーション低下に怒り心頭だという。なぜなら、「借金塗(まみ)れの創業者の負債を帳消しにするスキームを持ち込んだのは、エースの前経営陣だった」(関係者)からだ。

エースを創業した榊原氏は47歳の若さで社長を退き、2010年に退任するまで32年にわたり会長の座にあった。その間、8人の社長のクビをすげ替え、有無を言わせぬ「ゴッドファーザー」として君臨した。95年に業界初の株式公開を果たし、巨万の富を手にした頃が絶頂期。榊原氏の持ち株は500万株を超え、その口癖は「会社は資本の論理」だった。

その榊原氏が借金地獄に落ちたのは00年頃。本人は否定するが「株と相場の失敗」(元役員)との見方がもっぱらだ。エースの子会社である興栄商事が、榊原氏の自宅に15億円の根抵当権を設定し、興栄商事から日栄興商なる榊原氏の個人会社に数千万円単位の貸し付けが繰り返され、貸付総額は7億円を超えた。その日栄興商の登記簿の目的には「有価証券の売買」「競走馬及び証券の投資業」とあり、その所在地は榊原氏の女性秘書の自宅というから、コンプライアンス不在も甚(はなは)だしい。

監査法人につつかれたエース前経営陣は、09年3月に榊原氏個人に新たに7億3千万円を貸し付け、興栄と日栄の貸借を解消させた。翌年、榊原氏の保有株と自宅に担保権を設定し、年間2400万円を返済させる契約を結んだ。しかし、この条件では、返済まで40年以上かかるため、当時79歳の榊原氏からの回収はほぼ不可能。おまけに、同年6月の取締役会で田中孝男前社長一任のもとで、榊原氏へ6億8千万円の退職慰労金の支給を決定し、取締役を退いた榊原氏に毎月300万円の相談役報酬を払うことも決めたが、懸案の7億円の借金の弁済を求めた形跡はない。この常識外れの顚末は、榊原氏がクビをすげ替えた8人目の社長、田中孝男氏(現顧問)と、経済産業省元審議官の石海行雄副社長(現特別顧問)が主導したという。監督官庁から天下った石海氏が果たした役割と責任が問われる。

前社長らの「特別背任」か

そして、「純資産が100億円もある会社の創業者が借金で困っている」と、タイガーにエース売却を持ちかけたのは、エースの子会社、アルバース証券の田原弘之社長とされる。榊原氏が身を乗り出し、ラーチ氏との間でエース株の高値買い取りと経営権譲渡をセットにした秘密契約が結ばれたのは5月中旬のことだった。

創業者とはいえ、取締役を退いた榊原氏には何の権限もない。ハゲタカと手を組み、己の借金を帳消しにする榊原氏の悪だくみを知りながら、資本業務提携を推し進めた田中社長と石海副社長には特別背任の疑いがかかる。二人は今年6月に揃って退任したが、田中氏は退職金の上乗せと顧問の座を得、石海氏も特別顧問に就任した。榊原氏の命令で厚遇が決まったという。

今年2月、エースの子会社であるマックスマネー・インベストメントに国税庁の税務調査が入り、桜沢(本名・川田)勝行社長が部下の業績給を上乗せし、会社に4千万円もの損害を与える横領事件が発覚した。外資系証券会社を渡り歩いた桜沢氏は榊原氏に気に入られ、エースの証券運用室長にスカウトされた人物。09年に榊原氏の指名でマックスマネーの社長に就任した。さらに、桜沢氏が部下から集金する際「(榊原)会長に渡す現金だ」と説明しており、榊原氏への資金還流の疑いが浮上した。「あり得る話」と関係者が口を揃えるのは、昨夏、不祥事が発覚した際、桜沢氏は榊原氏のもとへ駆け込み、厳罰を免れたからだ(減給処分)。そして、榊原氏の命を受けた石海氏が火消しに回り、桜沢氏は取締役として残った。4千万円の横領が見つかり、国税庁から追徴課税を受けた社長が取締役に居座るなど常識的には考えられない。

榊原氏は今も本社で社長より大きな執務室に陣取り、「主人を噛んだ犬は撃ち殺すんですか、野良犬にしてやるのですか」と、牧田社長派の謀反への怒りを隠さない。しかし、もはや敗残の老ライオンに近寄る者はない。冒頭の一括返済請求は、日米現経営陣の「縁切り宣言」。立志伝中のエース交易の創業者は墓穴を掘ってしまった。

   

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