看板倒れの「福井の稲妻」。規制改革に抵抗する霞が関に歯が立たず、ミスキャストか。
2013年6月号 BUSINESS
国会で答弁する稲田朋美行革相
Jiji Press
筋金入りの保守派論客として知られる稲田朋美行政改革相が、試練に直面している。安倍晋三政権の成長戦略作りが大詰めを迎える中、その柱となるはずの規制改革を巡り、まったく存在感を示せない。規制改革に抵抗する各省庁の厚い壁を破る突破力は望み薄である。
第二次安倍内閣で初入閣した稲田氏は、弁護士として活躍していた2005年夏、自民党が開いた勉強会で当時幹事長代理だった安倍首相と会ったのがきっかけで、政界入りした。
直後の衆院選に福井1区から郵政造反組の対抗馬として立候補し、初当選した小泉チルドレンだが、保守色の強い主張は首相と極めて近い。
南京大虐殺を虚構として否定しているほか、06年に保守系議員らによる「伝統と創造の会」の会長に就任した。日本人であることに国民が誇りを感じる「道義大国」実現を訴え、尊敬する人は西郷隆盛という。
首相がわずか当選3回の稲田氏を閣僚に抜擢したのは、「福井の稲妻」とも言われる行動力と発信力を政権のイメージアップにつなげる狙いだった。
稲田氏も大臣就任当初、「民主党政権のような見せかけではない、本当の意味の政治主導と、政治と官の在り方を追求していく」と意欲を見せていた。
だが、それから約4カ月、稲田氏が担当として所管する規制改革会議(議長=岡素之住友商事相談役)では、ほとんど発言せず、静かに議論を見守る姿が目立っている。
4月25日の参院予算委員会では、民主党政権の事業仕分けで「仕分けの女王」と呼ばれた蓮舫・元行政刷新相が質問に立ち、稲田氏との新旧対決があった。しかし、詰め寄る蓮舫氏に稲田氏は素っ気ない答弁に終始し、かみ合わないままだった。
菅義偉官房長官から、「軽率な発言を慎め。政権の命取りになりかねない」と釘を刺されたという稲田氏。ともかく安全運転に徹する考えとみられる。
とは言え、政治主導で推進すべき規制改革の論議で、担当大臣がお飾り人形のような姿勢を続ける弊害は少なくない。
日本経済再生を目指す首相は、大胆な金融緩和、機動的な財政政策に続くアベノミクスの「3本目の矢」として、6月に成長戦略を策定する。その戦略の「一丁目一番地」として期待されているのが規制改革である。
規制改革会議は、岡議長のほか、議長代理には第一次安倍内閣で経済財政担当相を務めた大田弘子政策研究大学院教授が就き、企業役員や有識者ら計15人で構成される。
年初以来の議論を踏まえ、規制改革会議は5月初め、検討の方向性を示す中間報告をまとめた。健康・医療、エネルギー・環境、雇用、創業等の4分野がテーマで、規制を海外と比較して検証する「国際先端テスト」の導入が最大の目玉という。6月に最終報告をまとめる。
国際先端テストとは、規制を国際比較したうえで、所管する当該官庁に規制の必要性について説明を求めるものだ。岡議長は「合理的で納得できる説明がなければ、規制そのものを変えるべきだ」と述べ、各省庁を揺さぶる構えをみせる。
だが、懸念されるのは、国際先端テストの対象が14項目と少ないうえ、やや小粒なテーマが並んでいることだ。
例えば、健康食品の機能性表示の容認、医療機器の審査期間の短縮、一般用医薬品のインターネット販売規制、給油所の天然ガスやガソリン車の停車規制、先進自動車の公道走行実験手続きの簡素化などである。
一般用医薬品のネット販売については、厚生労働省がすでに解禁の方向で検討中だったし、14項目の大半は、所管官庁が譲っても仕方ないと考えているものが多い。国際比較テストをテコに厳しく規制に切り込んだとは胸を張れそうもない。
国際先端テストは、かつて小泉政権時代、行政サービスと民間事業を比較するために実施した「官民競争入札制度」(市場化テスト)も連想させる。
「民でできるものは民へ」という狙いでスタートした市場化テストは、ハローワーク事業の一部民間委託などが実現したものの、尻切れトンボだった。
今回、医療分野の緩和では多少の進展が期待される一方で、国際先端テストも中途半端に終わらないか、要注意だろう。
最も問題なのは、厚い規制で長年守られてきた「岩盤」は国際先端テストの対象外に押しやられた点だ。株式会社形態の農業法人の全面自由化や、コメの生産調整の在り方といった農業分野の棚上げが象徴的である。
規制改革会議でも、そうした大玉テーマを問題視する声が上がったが、夏の参院選での必勝を期す政府は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉入りを控え、農業団体を刺激するような規制改革に及び腰だ。
世間の目を意識してか、岡議長が「時期がきたらしっかりと対応する」と述べたのに対し、稲田氏が真剣に農業を取り上げる意欲はうかがえない。単なるポーズだけで終わりそうだ。
保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」の必要性が指摘されているのに、これも規制改革会義は素通りしている。
農林水産省や厚生労働省など霞が関は、稲田氏の限界を見透かしている。それが踏み込み不足になっている主因だろう。
一方、政府の産業競争力会議(議長・安倍首相)は、民間議員である竹中平蔵慶大教授らが主導する形で、都営交通24時間化や法人税下げなどの「アベノミクス戦略特区」を打ち出すなど、存在感を示している。
稲田氏は記者会見で、規制改革会議が地味すぎると追及された時、「着実に一個一個地味に見えても結果を出していくと同時に、今までなかなか挑めなかった壁にもやはり挑んでいかなければならない。これからだと思っている」と神妙だった。
規制改革会議は国民から広く意見を集める狙いで、規制改革ホットラインを3月に設置した。稲田氏はこれについても、「相当数来ている」としながら、明確に説明できず、ツールを生かせていない現状を露呈した。
首相は成長戦略で女性の活用を重視している。まず隗より始めよ、である。このままではミスキャストという評価が定着する。稲田氏に発破をかけ、「ともみ組」を立て直せるかどうか。残された時間は少ない。