2014年4月号 BUSINESS
岡素之議長
功を焦ったか、与(くみ)し易し、と侮ったか。政府の規制改革会議(議長=岡素之住友商事相談役)が「農協改革」で自滅寸前だ。同じく官邸に設置された産業競争力会議(本部長=安倍晋三首相)は昨年、新浪剛史ローソンCEOの活躍で40年ぶりのコメ減反廃止に道筋を付ける大手柄。規制改革会議も負けじと農協解体を目論んだが、そうは問屋が卸さず。昨秋から会議を重ねるごとに力不足を露呈し、農協改革の主導権を農協に奪い取られてしまった。
某農業専門紙のベテラン記者は「規制改革会議はド素人。農協の実態も問題点も全く分かっていない」と切り捨てる。農協という利益団体に全く歯が立たない、規制改革会議のおバカさんぶりを紹介しよう。
農協改革は、ITコンサルタント会社経営の金丸恭文氏(おバカの筆頭か)を座長に、本間正義東大教授ら有識者が顔を並べる規制改革会議「農業分科会」の守備範囲。彼らは現在の農協を「農業生産者への奉仕を求める農協法の精神から外れ、営利企業化している」と批判する。例えば、農協組織は農家(正組合員)と、1万~2万円の出資金を払ってJAバンクや野菜の小売店を利用する周辺住民(准組合員)で構成されるが、近年、正組合員数を准組合員が逆転した点をあげつらい、「農協法の精神に違反する」と批判する。しかし、そもそも正組合員より准組合員の方が多いのは違反と、農協法のどこにも書いていない。
終戦直後に生まれた「農家のための農協」に立ち返るため、農協から営農指導や農業振興事業を切り離すべきだという意味不明の主張さえ飛び交う。攻められる側の全国農業協同組合中央会(JA全中)幹部は「あの方たちが何をしたいのか、さっぱり理解できない」と首を傾げるばかりだ。
全国に703(2013年4月現在)ある単位農協の再編を進めるべし、というもっともらしい意見も出たが、既に単協の統廃合が進み、過去15年間で半分以下に減っている。合併に次ぐ合併で単協の組織が巨大化し、「農協と現場の距離が離れている」(JA全中幹部)と、生産者から問題視されている現実を知らないようだ。
農協法の精神云々にしても、例えば、現行の農協法第10条は店頭デリバティブ取引を認めている。農家への奉仕とデリバティブ取引がどうつながるのか。准組合員の数を云々するよりも、農協法自体が立法当時の精神と、いかにかけ離れているのかを、まず吟味すべきなのに、詰めた法律論議には及び腰。そもそも専門知識に欠けているのだ。
とどめは、昨年11月に行った農協グループからのヒアリング。農水省幹部によると、全国農業協同組合中央会の席に置かれたネームプレートは「全国農業共同組合中央会」と誤記されていた。これから改革のメスを入れようとする利益団体の名前を書き間違えるとは、お笑いだ。
規制改革会議には農協改革を口にする資格などない。それでも安倍政権は後には引けず、規制改革会議の議論を土台に農協改革案を6月に策定する意向を崩さない。こんな張子の虎のような連中が作る改革案など、農協は痛くも痒くもない。規制改革会議はイチャモンを付ける前に、岡議長が頭を丸め、「おバカ分科会」のクビを挿(す)げ替えるべきだろう。