「インフラ輸出」に追い風 ダイバーシティを急げ!

釡 和明 氏
IHI会長、東京商工会議所副会頭

2014年4月号 BUSINESS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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釡 和明

釡 和明(かま かずあき)

IHI会長、東京商工会議所副会頭

1948年長崎県生まれ(65歳)。71年東大経済卒業。石川島播磨重工業(現IHI)入社。旧経済企画庁への出向、6年間の米国IHI勤務を経て、04年執行役員兼財務部長。07年社長、12年より会長。入社以来、財務畑一筋のエキスパート。13年11月東商副会頭に就任。

写真/平尾秀明

――この1年間に、安倍首相の経済ミッションに4回も参加されました。

釡 昨年4月のロシア・中東訪問には、100人を超える経営者が同行し、史上最大・最強の経済ミッションになりました。私は、続く5月のミャンマー訪問、10月のトルコ再訪問、今年1月のモザンビーク訪問にもお供しました。首脳会談後に開かれるビジネス・フォーラムでは、我々にも相手国首脳の前でプレゼンテーションの機会が与えられます。インフラ輸出を成長戦略の柱に据える総理のトップセールスは見事なものでした。

――1月初めにはエルドアン首相が来日し、1年間で3度目となる日本・トルコ首脳会談が開かれました。

釡 両首脳はEPA(経済連携協定)の政府間交渉を始めることで合意し、原子力発電所に続き、新たなインフラ受注にも弾みがつきました。私は日本経団連の日本トルコ経済委員長を務めていますが、トルコは中東の大国であり、歴史的な親日国です。地理的な要衝にあるトルコには、すでにトヨタ自動車はじめ100社以上が進出し、欧州への輸出拠点を築いています。エルドアン首相は世界17位のGDPを、建国百周年の2023年には10位以内に引き上げることを目標に、高度成長を突き進んでいます。トルコでの成功を、官民連携によるインフラ輸出のお手本にしたいものです。

「時はカネなり」の夢の大橋

――IHIのトルコへの進出は?

釡 1970年代初めから橋梁工事を手がけ、「第2ボスポラス大橋」など三つの橋を建設しました。さらに、2011年にはトルコ最大の都市・イスタンブールと第3の都市・イズミルを結ぶ「イズミット湾横断橋」の受注にも成功しました。これは全長約3千m、総工費1千億円を超える国家プロジェクトで、完成すれば世界有数の長大吊橋となります。現在フェリーで1時間かかる湾横断をわずか5分に短縮する、文字通り「時はカネなり」の夢の長大橋なのです。

トルコは日本と同じく地震大国です。当社が施工した長大橋には、阪神・淡路大震災でビクともしなかった「明石海峡大橋」があり、マグニチュード8の揺れでも持ち堪える耐震・免振技術が、契約の決め手になりました。エルドアン首相からは「イズミットの納期短縮と、これに続くダーダネルス海峡大橋の準備」を求められています。足元の我が国のインフラ受注額は約10兆円。これを安倍政権は2020年に3倍の30兆円に増やす意気込みです。この追い風に乗らなければ。

――5年ぶりの増収増益見通しに、株価も500円前後の高水準ですね。

釡 航空エンジンやターボチャージャー(過給機)の世界需要が増大し、今年度の営業利益を530億円に上方修正しました。15年度の営業利益850億円という目標も射程に入ってきました。

――07年に巨額損失を計上し、上場廃止の危機に直面したのがウソのようです。

釡 社長在任の5年間に「三つの会社の姿」を訴えてきました。一つ目は「経営と従業員のベクトルは合っているか」、二つ目は「従業員の頑張りが業績に直結しているか」、最後に「計画や予算をしっかり守って規範性、倫理性の高い会社にしたい」ということでした。私は部下をぐいぐいと引っ張っていくタイプではありませんが、こうした考え方に基づき、安定的な収益を出せる組織と管理のシステムを作ってきました。あの苦しい時期を乗り越え、何とか沈まない経営基盤ができたかなと思うことがあります。

初の女性役員と管理職数値目標

――昨年11月にIHI元会長の故・稲葉興作さんが会頭を務めた東京商工会議所の副会頭に就任しました。これからは財界活動が軸になりますか。

釡 新会頭の三村明夫さん(新日鉄住金相談役)は「我が国の強みと潜在力の再認識とその発揮」「民間の自助努力」「成長につながる国際化」という三つの視点を掲げ、「現場主義」と「双方向主義」を基本行動とする方針を打ち出しました。そして「(今年は)デフレマインドから脱却し、自信を持って前向きな行動マインドに転換する、いわば『国のリセット』の年」と宣言されました。思いは同じであり、私は「ものづくり推進委員会」担当として、三村さんを支えたく思います。

――創業160年の歴史を持つ御社で、初めて女性の執行役員が誕生しますね。

釡 女性の活動推進は世界的な流れであり、アベノミクスの「新たな成長戦略」の中核にも女性の活躍が据えられています。当社では「人材マネジメント方針」のキーワードである「ダイバーシティ」を高める人事政策を展開しています。ダイバーシティとは、市場の要求の多様化に応じて、企業でも人種、性別、年齢、信仰などにこだわらず、多様な人材を生かし、最大限の能力を発揮させようとする考え方です。なかでも、優秀な女性の採用と入社後に活躍できる環境の整備・企業風土の醸成が必須の課題です。

――安倍首相は国家公務員の女性採用を30%以上にする方針を打ち出しました。

釡 男性中心の製造現場が主力とはいえ、当社の女性管理職(課長相当職以上)は少なすぎます。このため、現状の女性管理職44人(1.6%)を5年後に75人(3.0%)以上に増やす数値目標を定めました。さらに、理系の優秀な女子学生の採用につなげるため、女性のみの採用セミナーや女性採用パンフレットの発行、女性インターンシップの受け入れも行っています。また、育児・介護のための様々な制度を充実させ、結婚や介護などを理由に退職した社員から、将来再び当社で働きたいという希望を受け付ける制度も作りました。

海外売上高比率が約5割の当社では米、英、韓、シンガポールで説明会を開き、毎年15人程度の外国人を採用していますが十分とはいえません。当社の「技術」と「ものづくり」の強みを結集し、IHIならではの価値を、形あるものとして世界に送り出していくには、ダイバーシティ(人材の多様化)が避けられません。

   

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