資産100億円の会社が夜逃げ。香港など海外へせっせと送金していた形跡がある。
2014年6月号
DEEP
by 山口義正(ジャーナリスト)
ライツマネジメント社が入っている雑居ビルと郵便受けの社名
ある投資会社が債権者から破産申し立てを受け、4月2日に破産手続きが始まった。社名はイビサ。2004年にはジェイ・ブリッジ(現アジア・アライアンス・ホールディングス)と組んで多摩川電子(現多摩川ホールディングス)を買収し、イッコー(現Jトラスト)やマイカル子会社だったエルメなどにも手を出した。どれも「資本のハイエナ」が群がったハコ企業ばかりだ。
イビサ代表の赤星佑次は外資系証券を渡り歩いた後、元ジェイ・ブリッジ社長の桝沢徹とともに多摩川電子の取締役を務めていた時期もある――と説明すれば、イビサがいかに怪しいかを察するのは容易だろう。
イビサが破産の申し立てを受けたのは、債権者から預かっていた3千万円の返還に応じようとしなかったため。この1年ほどの間、債権者から何度も資金の返還を求められ、赤星はその都度、弁護士の前で返還を約束し、念書も書いた。が、資金が返還されることはなかった。
痺れを切らした債権者はイビサの破産を申し立てる。「ここまですれば、カネを返すだろうと思った」(債権者)からだが、赤星は逐電。債権者側は関係書類を赤星に送達しようとしたが居所がつかめず、やむなく赤星の実家に送達した。ところが破産を申し立てられたにもかかわらず、赤星は裁判所に顔を出すことさえなく、破産管財人も裁判官も「こんなケースはあまりない」と顔を見合わせている。
イビサのホームページ上の本社所在地は東京・中央区だが、登記上の本社は品川区で、破産時の拠点は港区だったという。
ここで赤星が買収した別の非上場企業にスポットを当てねばならない。昨年6月に民事再生法を申請した携帯電話用コンテンツの「インデックス」(事業はセガサミーが継承、現在のインデックスは資本関係のない別会社)の子会社だった「ネオ・インデックス」である。ネオ社は07年6月に買収された後、ネオ社と「ライツマネジメント」に会社分割され、ネオ社は10年9月に破産。ライツマネジメントは映像配信サービスの会社として資産や事業基盤を継承して存続することになった。
旧インデックスの有価証券報告書(有証)を見ると、11年8月期まで55億円がライツマネジメントに貸し付けられていたことがわかる。しかし、翌期には貸付先の一覧表から名が消えた。返済された痕跡はない。残存年数が1年を切って短期貸付金に振り替わった様子もないから、旧インデックスは貸倒引当金を積んで損失処理を済ませた可能性がある。当時すでに経営難に喘いでいた旧インデックスにとって、総資産の5分の1に相当するこの融資はどこで溶かされ、吸い込まれてしまったのか。
東京・葛飾区のJR金町駅北口を出て、ファストフード店やパチンコ店、飲み屋などが立ち並ぶ商店街の外れに古い雑居ビルがある。ライツマネジメントはこのビルの店子なのだ。
昼間だというのにオフィスにはまったく人けがなく、ドアをノックしても応答がない。営業実態のなさそうなこの会社が、55億円も使って事業を展開しているとはとても思えない。映像コンテンツの管理・配信だけで、それほど巨額の資金が必要な事業内容とも考えにくい。
イビサはライツマネジメント株を100%取得したことで、総資産は100億円前後に膨らんでいる。わずかな借入金を返済せずに資産100億円の会社をつぶしたのだから、誰もが赤星の真意を測りかねている。
破産管財人は破産を申し立てた債権者や負債総額を明らかにしていないが、筆者は関係者の一人から話を聞くことができた。
「イビサは資産規模こそ大きいが、現金がほとんどないもようで、実際の価値がどれほどなのか怪しい映像権ばかり多く保有している」
「イビサには定期的におカネが振り込まれるが、そのカネは一瞬のうちに口座から引き出されて、どこかに移されている」
「赤星は旧インデックスの落合正美前会長から多額のカネを借り入れていた」
不可解な話ばかりだ。
別の関係者は「赤星は多額の現金をたびたび香港に送金しており、イビサは資金洗浄のための会社だろう。イビサの内情がはっきりすれば、旧インデックスや周辺のカネの流れも分かりやすくなるはず」と証言する。
それを裏付けるかのように、香港やシンガポールの金融筋は「反社会的勢力が振り込め詐欺などで集めた資金が、イビサから香港やシンガポールに送られ、海外に拠点を置くヘッジファンドはそのカネでボロ会社の新株予約権を使った仕手戦を繰り広げている」と囁いている。
旧インデックスの周辺で怪しいのは、イビサやライツマネジメントばかりではない。
11年8月期までその子会社だったビッグヒットは、やはりボロ会社のファイナンシャルアドバイザーとして、ゲートウェイホールディングスやコネクトホールディングス、ワールド・ロジなどの新株予約権発行に関わっていたが、昨年6月からは投資ファンドに転身したことが官報に掲載されている。
旧インデックスやライツマネジメント、ビッグヒットなどは日本振興銀行ともつれ合ううちに、闇人脈の手によって会社そのものが“溶かされ”てしまったのだろう。
一方、本誌スクープで日本振興銀行とその周辺のボロ企業群(中小企業振興ネットワーク)の間で不明朗な資金を循環させていた事件が明るみに出てから4年近く経ったが、木村剛元会長らの容疑は検査忌避の微罪だけ。ところが、警視庁はまだこの事件の謎解きを諦めていないのだ。
「まだ何かあるだろうと思って、振興銀行から押収した膨大な資料の大部分は今も返却せずに手元で保管している」(捜査関係者)。旧インデックスの有証には、振興銀行との金融取引で抱えるはずだった損失を外部に“飛ばし”たのではないかと思わせる債権譲渡の痕跡もある。
旧インデックスの循環取引について第三者委員会の報告書がそろそろまとまり、捜査当局が近く動きだすのではないかとの観測が流れたが、背後には循環取引どころではない漆黒の淵が広がっている。(敬称略)