危うい「株価吊り上げ」策 安倍「右旋回」に待った!

海江田万里 氏
民主党代表

2014年6月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

  • はてなブックマークに追加
海江田万里

海江田万里(かいえだ ばんり)

民主党代表

1949年東京生まれ。慶大法学部卒業。参院議員秘書を経て経済評論家として活躍。93年衆院議員に初当選(東京1区・当選6回)。菅内閣で経済財政政策担当相、経済産業相を歴任。民主党が下野した12年12月より現職。漢詩の造詣が深く、中国語が堪能な中国通である。

写真/平尾秀明

――消費増税後も安倍内閣の支持率は50%を超え、人気が衰えません。

海江田 アベノミクスが「ショック療法」として円安・株高誘導に成功したことは認めますが、その本質はポピュリズムそのもの。第1の矢は「コスト先送りの金融政策」であり、第2の矢は「需要先食いの財政政策」でした。目先は誰も困らないバラマキだから人気は出ます。その時間稼ぎの間に安倍さんは成長戦略の矢を放つと喧伝してきましたが、肝心の規制改革は進まず、実績はゼロに等しい。公共事業と財界向けの賃上げ要請パフォーマンスで期待感を繋ぎ止めているだけです。このままバラマキが続けば国債金利に影響し、アベノミクスの出口戦略が困難になる。今後は、バラマキ政策による財政赤字の増大と、円安にもかかわらず輸出が増えず、輸入が増えて貿易赤字が増大する、「アベノリスク」を警戒しなければなりません。

年金基金「GPIF」が禁じ手

――総理自ら内閣支持率の高さは株価高騰に支えられていると認めています。

海江田 昨年1年間に日経平均株価は57%も上がりました。しかし、最近1年間は、2013年4月末の1万3860円からほとんど上昇していません。昨年、日本株を一番買ったのは外国人投資家で、1年間に16兆円も買い越しました。一方、日本の機関投資家は6兆円、個人は9兆円の売り越しでした。要するに日本株を外国人が買い、日本人は売っていたのです。そして今年1月、外国人が1.3兆円売り越したため株価が下がりました。いつ、外国人の「売り」が加速するか、総理も気が気でないはずです。

そこで株価吊り上げの切り札が登場。買い意欲の衰えた外国人に代わって、公的年金の管理・運用を行う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を、新たな買い手にする目論見です。世界最大の年金基金であるGPIFの運用資産は約130兆円。これまで国債中心の低リスク運用が特徴で、国内株式の運用は17%だけでした。安倍政権はそこを改革し、ハイリスク運用の拡大を打ち出しました。もし、国内株式運用を20%に引き上げたら4兆円弱の新たな買いが発生し、短期的に株価が上がるでしょう。しかし、ハイリスク投資で穴を開けたらどうするのか。大事な老後の資金を使って株価を吊り上げるなんて、断じて許せません。

――オバマ大統領の来日によって、日米同盟は深化したとお考えですか。

海江田 日米安保条約のコミットメントが尖閣諸島に及ぶという発言を初めて引き出したことは重要な成果だと思います。しかし、共同会見で、「バラク」と安倍総理は言ったのに、オバマ大統領は「シンゾウ」と応じない。しっくりいっているようには見えませんでした。

日本での共同会見なのにオバマ大統領は経済・軍事両面で大国にのし上がった中国に配慮し、「事態を悪化させるのではなく、日中の信頼醸成に努めるべき」と、安倍首相に対話を促しました。アジア太平洋地域を重視する、米国の「リバランス(再均衡)」政策は、安全保障と経済が両輪であり、中国との相互依存関係を大切にしています。一方、安倍政権は日米同盟の強化を対中戦略の軸に据え、経済より安保優先。日米間の対中戦略ギャップが心配です。昨年12月の安倍首相の靖国参拝は中国、韓国に不安を与え、特に対中経済は凍りつきました。首相が経済を重視するなら、世界の成長センターである中国との関係を修復しない限り成長戦略は土台から崩れます。安倍首相は抑止力の強化だけでなく、歴史認識を含め、もっとバランスのとれたアジア外交を展開すべきなのです。

成熟した民主主義を守る気概

――オバマ来日に先立ち、野党外交の第一弾として4月上旬に訪米しましたね。

海江田 安倍首相は昨年9月に「私を右翼の軍国主義者と呼びたいなら、どうぞ」と発言し、昨年末に靖国参拝しました。安倍首相と側近議員、そして首相が抜擢したNHK幹部らの一連の言動が「首相は歴史修正主義者(リビジヨニスト)ではないか」という疑念を拡散させています。そんな首相の支持率が予想外に高いため、日本政治の右傾化が、国際的に懸念されるようになりました。確かに2009年に下野した自民党は保守回帰を謳って右旋回しました。その後、民主党政権の失政と日本社会の保守化の波に乗り政権復帰を果たした自民党は今、安倍首相の下で国内的には権威主義に傾斜し、国際的には健全なナショナリズムの域を超えて東アジアの不安定要因になっています。

私は、米ブルッキングス研究所の講演で「歴史修正主義を否定し、これと闘います」と宣言し、最近の朝日新聞が行った世論調査を紹介し、日本人の平和志向は健全であり、日本全体が「右旋回」したわけではないと説きました。さらに、サンフランシスコ講和条約によって生み出された戦後の国際秩序を尊重し、東京裁判で判決を受けたA級戦犯が合祀されている靖国神社への首相参拝は許されないと論じました。戦後の日本社会が育ててきた成熟した民主主義を守る政党が健在であり、首相の右旋回に待ったをかける政治勢力が萎縮していないことを訴えたかったのです。

――来年春の統一地方選に向けた党勢回復の取り組みは進んでいますか。

海江田 まず一番の支援者である地域の党員・サポーターを、県連・総支部単位で目標を定め、現在の22万人から30万人に増やします。全国約1800人の自治体議員が日常的に議会報告を行い、意見交換する活動スタイルを定着させ、女性候補を掘り起こし、現在約300人の女性自治体議員を倍増させたいと思います。パッと生まれた政党はほとんどパッと消えていきます。結党から18年が経ち、政権担当の経験を持つ民主党が、遠からず政界再編の核になると、私は確信しています。国民は早晩「アベノマジック」から目が覚めます。その時、成熟した民主主義の旗を掲げる民主党を振り返ってもらえるよう一致結束して行動します。

   

  • はてなブックマークに追加