「新しいメディアの形」との謳い文句とは裏腹に、実態は著作権無視のパクリメディアばかり。
2014年10月号 LIFE
著名ITジャーナリストの佐々木俊尚氏が共同編集長の「旅ラボ」でさえ……
インターネットには、しばしば著作権意識がすっぽり抜け落ちたサービスが出現するが、現在の最右翼は「バイラルメディア」だろう。
バイラルメディアとは、本誌4月号「スマホの寵児『ウイルス性メディア』」で取り上げた通り、ウイルス(Virus)のように急速に情報を拡散させるメディアという意味だ。スマートフォンからの閲覧に最適化されており、フェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアとの相性も良いため、掲載された情報は瞬く間に拡散してゆく。その情報の拡散力を目の当たりにした大手メディアやベンチャー企業がこぞって参入し、今や国内でも雨後の筍のように新バイラルメディアが生まれている。
だが、サービスの参入障壁が非常に低いため、「コンテンツなんてパクってなんぼ」程度のモラルしか持ち合わせていない運営者が立ち上げたサイトが乱立し、早くも著作権無視のカオス状態になりつつある。取り上げる内容も、過去にネットで話題になったコンテンツの使い回しだったり、挙句は他のバイラルメディアからの使い回しである。フェイスブックやツイッターで同じ情報を何度も目にするのはそのためだ。
バイラルメディアの情報を収集するスマートフォン向けアプリを提供している「バズまろ」が、ブログで「同じ記事ばっかり!?バイラルメディアの記事かぶりランキングを出してみた。」と業界の体質を批判したことで、サイト同士の批判のし合いが泥沼化しているが、まともなサイトを見つけるほうが今や難しくなりつつある。
バイラルメディアの核となる情報キュレーション(ブログ記事、写真、動画などから情報を収集・整理し紹介すること)の概念を日本に広めた、著名ITジャーナリストの佐々木俊尚氏が共同編集長を務める「TABI LABO(旅ラボ)」でさえ同様だ。佐々木氏が関わっていることもあって、バイラルメディアの中では頭ひとつ抜けた存在だったが、その内実もあまりにお粗末だった。
旅行や海外で話題になっている情報を綺麗な写真と簡潔な文章で取り上げることで、月間3千万ページビュー(PV)を謳う急成長メディアとして話題を呼んでいたが、海外の複数サイトから無断で記事や写真を盗用していることが判明。指摘を受けると、それまで積極的にメディアに露出していた他の運営者らは、サイトからプロフィールを消して雲隠れしてしまう。佐々木氏と言えば、IT業界でも名の知れたジャーナリストなだけに、今回の騒動はバイラルメディアがいかに著作権意識とメディアとしての責任感に欠けているかを決定付けてしまった。
バイラルメディアの運営者が、安易に著作権を無視した方針を取るのは、PVと収益に高い相関関係があるからだろう。大手メディアのような広告のナショナルクライアントを持たないネットメディアの収益源は、サイトに掲載したグーグルの広告「アドセンス」やアフィリエイトなどのアドネットワークからの掲載料に限られる。こういったアドネットワークからの収入は、どのサイトでもPVと掲載料の割合は大差ないので(アダルトサイトは除く)、収益を上げようと思えばPVを稼ぐ以外に手はないのだ。
ネットでまとめサイトを運営する人物は「バイラルメディアにしても、2ちゃんねるのまとめサイトにしても、概ねアドネットワークからの収入は1PV=0.1円程度。例えば月間1千万PVのサイトなら、収益は100万円程度から大きくは外れないだろう」と明かす。他所からパクってでもPVを稼ぎたいという心理が働きやすい構造と言えるかもしれない。
とはいえ、バイラルメディアという新しい概念を建前にしても、パクリは明確な著作権の侵害である。たとえ運営者側が「引用」だと主張しても、本文との明瞭な区別性と主従制が認められなければ、それは無断転載と言う。気軽に立ち上げられるからといって、安易にパクリを繰り返せば当然訴えられるリスクもあるが、多くの運営者にその自覚は見られない。
著作権法に詳しいひかり総合法律事務所の板倉陽一郎弁護士によれば「もし記事を無断転載したり、無断翻訳したバイラルメディアが権利者側に訴えられた場合、著作権法114条により、記事の単位当たり利益にPVを乗じた額、侵害によって侵害者が得た利益、受け取るはずのライセンス料のうち、最大金額相当を損害賠償請求される恐れがある」というから、運営者は肝に銘ずるべきだ。
本誌4月号の記事の通り、バイラルメディアの仕組みには既存メディアが持たない優れた点も多く、そのもの自体を否定するつもりはない。米国発バイラルメディアの代表格である「BuzzFeed」の求人サイトには、各分野の編集者からデータ分析者まで幅広い人材募集が並んでおり、オリジナル度を高めていこうという姿勢が表れている。これはいかに情報を拡散させる仕組みを持っていたとしても、いつまでも他人のフンドシで相撲を取っているだけでは、競争の激しいネットメディア業界で生き残ることはできないという証左だろう。
そのBuzzFeedは年内にも日本版を開始すると見られているから、その上陸が業界の次の潮目になりそうだ。国内バイラルメディアは今の粗製濫造から足を洗わなければ、組織力のあるBuzzFeedに一蹴されるのがオチだ。露と消えた後、媒介していたのが低次元のモラルだけだったら、それはあまりに虚し過ぎる。