長島 昭久 氏
民主党衆議院議員 元防衛副大臣
2014年10月号
POLITICS [インタビュー]
聞き手/本誌編集人 宮嶋巌
1962年生まれ。慶大院・修士、米ジョンズ・ホプキンス大院・修士。日本人初の米国外交問題評議会入り。2003年衆院初当選(当選4回)。野田政権で首相補佐官、防衛副大臣を歴任。集団的自衛権の限定行使を認める安全保障基本法の制定を主張する野党超党派議連の会長。自他ともに認める米国通「保守の論客」である。
写真/平尾秀明
――安倍総理は豪州に続き、インドとの安全保障連携を強化しました。
長島 かつての「中華帝国」の再興を目指す習近平政権は、東シナ海、南シナ海にとどまらず、インド洋への覇権拡大を狙っています。それを警戒する豪印が、我が国と手を結ぶのは自然な成り行きです。中国の国防予算の伸び率は毎年2ケタ。軍事費は25年前の34倍、10年前の4倍に急増し、2030年には米国と肩を並べる勢いです。中国海軍の海洋進出は、今や尖閣諸島から沖縄・南西諸島が連なる「第1列島線」を遥かに越えて、グアムを含む「第2列島線」に至る広大な海域を縦横に動き回っています。南シナ海におけるベトナムと中国の武力衝突は、決して他人事ではありません。
――公海上で中国軍機が米軍機に6mまで異常接近する事件が発生しました。
長島 中国軍の挑発行動は「排他的経済水域(EEZ)では許可なく軍事的行動をさせない」という、独自の主張に基づくものです。EEZは自国の海岸線から200カイリにおける経済的主権(天然資源の調査・開発)を、国連海洋法条約が認めたもので、沿岸国の主権が及ぶ12カイリとは異なります。ところが、中国はEEZを「海洋国土」と位置付け、領海と同一視して米軍偵察機の接近を妨害しているのです。これは、伸び盛りの大国による国際法秩序への挑戦であり、中国は自分に都合のよいルールを周辺国に押し付け、摩擦を激化させています。中国の東・南シナ海における無法な拡張は、周辺国の「反中アライアンス(包囲網)」を促し、戦略的な失敗は明らかです。
――安倍政権は集団的自衛権の行使を合憲とする閣議決定を行いました。
長島 中国の覇権拡大、北朝鮮の核とミサイルの脅威の増大など、我が国を取り巻く安全保障環境は悪化の一途です。私は、我が国の存立が危機に直面したような事態に限って、集団的自衛権の行使が必要だと考えています。その際、焦点となるのは「歯止め」であり、それは国権の最高機関である国会において立法を通じて明確に規定されなければならない。閣議決定された内容が、どんなに限定的だと強調しても、それは一内閣における「口約束」にすぎませんから。
――集団的自衛権の行使を容認する野党超党派議連を立ち上げましたね。
長島 安倍政権は先を急ぐあまり、国会の審議を通じて広く正しく情報が公開され、国民の理解を深めるという、民主主義プロセスをすっ飛ばし、激しい批判を浴びています。私は「安全保障基本法案」を国会に提出し、立法府による憲法解釈を明らかにし、集団的自衛権行使の具体的な歯止めを明記することを、野党4党の有志(約50議員)と提案しました。
――総理は同盟強化が喫緊の課題と言いながら、米国としっくりいきません。
長島 米歴代政権の中で、オバマ大統領は外交・安全保障政策に関心が薄い、特異なキャラクターです。それに輪をかけて、大統領補佐官のスーザン・ライス女史(国家安全保障担当)もそのセンスが乏しいので、安倍さんだけでなく、各国首脳も困っていますね。
――米国にとって尖閣諸島は絶海の5つの岩にすぎないのでは?
長島 米政府が尖閣問題で日中紛争に巻き込まれる恐れを感じ、腰が引けたのは事実ですが、4月の日米共同会見で「対日防衛義務を定めた安保条約5条の適用範囲に含まれる」と、オバマ大統領が表明したのはよかった。我々は、尖閣を守ることは日本の領土保全にとどまらず、米国の地政戦略に欠かせぬ要衝を確保することだと、米国を積極的に巻き込んでいかなければなりません。
――民主党議員は「集団的自衛権行使は容認できない」という、のぼり旗を立てて街頭演説をしています。
長島 外交・安全保障には与党も野党もない、あるのは国益のみです。もはや米国の力が圧倒的な時代ではなく、全てを米国に頼り切れるような状況でもない。だから、憲法解釈の変更を踏まえて、日米両国は年末に日米防衛協力の指針(ガイドライン)を改定し、日米同盟の強化による抑止力を高めようとしています。集団的自衛権の行使を全く認めず、先の閣議決定を撤回せよという、およそ非現実的なスローガンを掲げて、この先、民主党の政権復帰が叶うとは思えません。
――民主党内はまとまりませんね。
長島 集団的自衛権の行使を絶対認めない左派が約10人、我々のような現実保守派が約20人、残りの約70議員は争点ごとに揺れる「スイングボーター」です。
――しかも民主党執行部は、安倍政権との対峙を意識して、左旋回しています。
長島 私は、民主党は政権運営には失敗したけれど、民主党が成し遂げた政権交代には誇りと意義を感じています。政権与党が倒れた時、現実的な選択肢として後を託せる責任野党が存在しなければ「競争の政治」は成り立ちません。政権を担った経験を持つ野党第一党である民主党の存在意義は、安倍政権に代わり得る野党再結集の軸になることです。
執行部が政治力学として安倍政権との対立軸を鮮明にすることは理解できますが、外交や安全保障についてはニュアンスやアプローチの違いはあっても、共通軸を持つことは自然なことだと思います。だから私は野党陣営にあっても、安倍政権に現実主義に基づく提言をし、「歴史修正主義者」との誹(そし)りを受けたり、我が国が「戦後秩序への挑戦者」であるなどという、あらぬ誤解を拡大させてはならないと、釘を刺してきました。それが「リアリズム保守」を唱える私の役割です。
――労働組合依存の民主党は為すべき「改革」に背を向け、外交・安保政策では左に傾き、社民党や生活の党に接近していると見られています。
長島 今のままでは、まともな他の野党から相手にされないでしょう。タカがハトを駆逐し、グンと右旋回した安倍政権にはもはや「振り子」の原理が働きにくい。「穏健な保守」の立ち位置に空白が生じた今こそ「リアリズム保守」の旗を掲げ、政権交代を志す野党議員の総結集を図るチャンスだと思います。