早くも瓦解「新電源ミックス」

2030年に「原子力20~22%」の新しい電源構成は、首相の公約に違反し、そもそも実現不可能!

2015年11月号 DEEP [特別寄稿]
by 橘川 武郎(東京理科大学大学院イノベーション研究科教授)

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運転期間延長を求める高浜原発1、2号機(上)と原子力規制委員会の田中俊一委員長

写真/宮嶋巌

本誌2月号に掲載された「原発はどこまで減るか」の中で、筆者は「一部のメディアにおいて、2015年は、『原発再稼働元年』と呼ばれている。しかし、今年再稼働する原発は、多く見積もっても、九州電力の川内1・2号機と玄海3・4号機、関西電力の高浜3・4号機、四国電力・伊方3号機の7基(いずれも加圧水型原子炉)にとどまるだろう。その一方で、少なくとも5基の廃炉が決まることは、確実である。これからは、いったん再稼働した原発が廃炉となるケースも出てくる。今後の方向性を見据えれば、15年は、『再稼働元年』と呼ぶよりは、『廃炉元年』と言った方が正確だろう」と書いた。実際は、どうなったか。今年再稼働する原発は、川内1・2号機の2基にとどまり、残り5基の再稼働は来年にずれ込む見通しだ。一方で、関西電力の美浜1・2号機、中国電力の島根1号機、九州電力の玄海1号機、日本原子力発電の敦賀1号機の5基の廃炉が決定した。果たして今年は「廃炉元年」となったが、再稼働への現実の厳しさは、筆者の予想を超えるものとなった。

今年7月、政府は2‌03‌0年度における長期エネルギー需要見通し(新電源ミックス)を決定。「原発回帰」へと舵を切り、8月には川内1号機が再稼働したため、原発が元に戻るかのように言う向きがあるが、それは大間違いである。

原子炉等規制法を骨抜き

政府は新電源ミックスを「原子力20~22%、再生可能エネルギー22~24%、LNG(液化天然ガス)火力27%、石炭火力26%、石油火力3%」と決めたが、この電源構成見通しは、「原発依存度を可能な限り低減する」と明記した14年の閣議決定「エネルギー基本計画」の方針に反するうえに、安倍晋三首相の公約とも矛盾している。

12年の原子炉等規制法の改正によって、運転開始から40年を経た原子力発電所は原則として廃炉となり、条件を満たした場合だけ1度に限りプラス20年、つまり60年経過時点まで運転が認められることになった。日本に現存する43基の原子炉のうち、30年12月末になっても運転開始後40年未満のものは18基にとどまる。つまり「40年運転停止原則」を厳格に運用した場合、25基が廃炉になるわけである。残る18基に、現在建設中の中国電力の島根原発3号機と電源開発の大間原発を加えても20基にしかならない。これら20基が70%の稼働率で働いたとしても、30年に1兆kWh弱と見込まれる年間総発電量のほぼ15%の電力しか供給できない。

「40年運転停止原則」が効力を発揮すると30年における原発依存度は15%前後となるため、それより高い20~22%の政府決定は、原発の運転期間延長か新増設かを前提としていることになる。安倍内閣は「現時点で原子力発電所の新増設は想定していない」と明言しているから、この5~7%の上積みは、ひとえに既存原発の40年を超えた運転、つまり運転期間延長によって遂行されるわけである。

「40年運転停止原則」に従った場合、30年までに廃炉が予定される25基の中には、東電の福島第2原発の4基も含まれる。それを差し引いた21基のうち、おおよそ15基程度を運転延長しない限り、政府案が言う5~7ポイントの嵩上げを達成できない。つまり、現行の原子炉等規制法の「40年運転停止原則」を蔑(ないがし)ろにし、同法が例外的に認める「60年運転」が常態化することになるわけだ。かかる原子炉等規制法を骨抜きにする強引な解釈は、安倍首相の「原発依存度を可能な限り低減する」という公約とも合致しない。政府決定の「原子力20~22%」は、首相の公約違反だと断じざるを得ないのである。

原子力規制委が突き返す?

安倍内閣と原子力所管の経済産業省は、新電源ミックスの原案を策定した審議会において、世論の動向を気にして、原子力発電所のリプレース(同一敷地内での旧炉の廃棄と新炉の建設)に関する検討を回避した。3年後の見直し時期に「ほとぼりが冷めてから持ち出そう」という思惑だろうが、所詮「あと出しジャンケン」にすぎず、そんな小手先の策略に嵌(はま)るほど、日本国民は愚かでない。また、そもそもリプレースの候補になり得る美浜4号機や敦賀3・4号機にしても、3年後に議論を始めるようでは、その建設が30年に間に合わない。正々堂々の議論を避け、こそこそと「30年原発20~22%方針」を決めた政府の術数は、波風を立てない「原発回帰路線の勝利」に見えるが、より本質的には、原子力の未来を閉ざすものとなる。

「原発依存度を可能な限り低減する」という公約を掲げながら、炉規制法の「40年廃炉原則」を蔑ろにする運転延長に舵を切る新電源ミックスには、厳しい社会的批判が避けられない。正々堂々の議論を避けた以上、30年に20~22%の原発依存度を達成することは到底不可能であり、15%にも届かないだろう。

それどころか、目下、運転期間延長の申請が出されている関電の高浜1・2号機と美浜3号機の3基について、原子力規制委員会が首を縦に振らない可能性がある。難燃性ケーブルへの全面置換を回避し、一部で延焼防止剤を塗布するだけの弥縫策を突き返すかもしれない。そうなると審査は16年7月ないし12月の期限までに間に合わないだろう。これら3基の延長申請が認められない場合、原発「60年運転」の常態化を前提とした新電源ミックスは、早くも音をたてて瓦解することになる。

安倍内閣は、「原発依存度を可能な限り低減する」という公約に立ち戻るべきだ。もし原発をある程度使うのであれば、危険性を最小化するという意味で、リプレースは避けて通ることができない。堂々とリプレースを問題提起したうえで、30年の原発依存度については、15%程度まで思い切り引き下げるべきであろう。

著者プロフィール
橘川 武郎

橘川 武郎(きっかわ たけお)

東京理科大学大学院イノベーション研究科教授

1951年生まれ。東大経卒。専門は日本経営史・エネルギー産業論。東大、一橋大両教授を経て、今年4月より現職。日本経営史学会会長。『電力改革―エネルギー政策の歴史的大転換』など著書多数。

   

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