小松 秀樹 氏
医師/元亀田総合病院副院長
2016年11月号
LIFE [インタビュー]
聞き手/本誌 上野真理子
1949年香川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。山梨医科大学助教授、虎の門病院泌尿器科部長などを歴任。著書に『医療崩壊 立ち去り型サボタージュとは何か』『医療の限界』など。
――公務員2人に対し、損害賠償請求訴訟を起こしましたね。
小松 9月にWHOに出向中の厚生労働省の元課長と千葉県の課長を不法行為で訴えました。訴額はたかだか25万4千円ですが、公務員個人を訴える裁判は、前代未聞だと思います。
――訴えを起こすきっかけは。
小松 私は千葉県の亀田総合病院の副院長当時、地域医療学講座の活動で映像や書籍の作成を行っていました。ところが昨年5月、突然県課長が2014年度の講座予算の削減と15年度の事業の停止を通告してきたのです。予算は国の地域医療再生臨時特例交付金から支給されていたもので、私はすでに15年度の予算決定通知を受け取っていました。抗議したところ、課長は通告が虚偽だったと明らかにしたものの、15年度予算については態度を曖昧にしたため、これらの経緯をMRICメールマガジンで批判しました。
すると6月に病院長から「厚労省が記事に対し怒っている。千葉県の批判を止めてもらえないか」と告げられた。その後言論抑圧を行ったのが厚労省課長(当時)だとの情報を得たので、同省に調査と対処を求めたところ、昨年9月、病院から懲戒解雇処分を受けたのです。
しかし批判されて「黙れ」と圧力をかけるのは、公務員の本来の職務ではないはず。訴訟することで、裏で病院長らを脅し私を辞めさせた人たちを引っ張り出せればと考えました。
――公務員の不法行為で損害を受けたら国家賠償法に基づき国や自治体を訴えるのが普通。
個人を訴えたのはなぜですか。
小松 私が「公務員の職務ではない」と書いた文章を井上清成弁護士が見て、「これは確かに公務員の職務専念義務に違反している。私的な行為として損害賠償を求めよう」と思いつきました。ほとんどの国家賠償請求訴訟はうまくいきません。刑事告発もしていますが、ハードルが高い。それなら個人的な逸脱行為だから個人を訴えようと考えたわけです。人のものを盗めばどんな職業の人でも訴えられるのと同じ。もし門前払いにならず、ちゃんと判決が出れば、公務員に対する抵抗の手段の一つとして、注目される判例になるでしょう。
――今回訴えた2人はいずれも厚労省の医系技官です。
小松 医系技官は医師免許を持つ官僚ですが、中には問題のある人もいる。医療現場の経験が乏しく学生レベル。法律の知識もないのに、裁量権を握っており、弊害が指摘されています。
千葉県では医療行政の失敗で、医師不足、看護師不足が顕著になり、通常の診療や2次救急の需要しかない地域に3次救急病院を作るといったミスマッチが強引に進められていました。2人の技官は時期をずらして同じ千葉県の医療行政に携わった。地域医療行政に関して情報開示請求をしたり、言論活動を行ったりする私が目の上のたんこぶだったのでしょう。病院経営者を脅し言論弾圧を行うような悪辣な役人を生む土壌も、検証されるべきだと思います。