2017年5月号
連載
by 宮
東電HD社長に決まった小早川智明氏は、原子力部門の経験がない
「1F事故が骨の髄まで身に染みているか」と注文を付ける原子力規制委の田中俊一委員長(4月14日、撮影/本誌 宮嶋巌)
大破した福島第1原発の3号機(2013年10月撮影)
社内取締役の平均年齢52歳——。旧世代と決別した東電HDの若返りの中で、誰も予想しなかったのが47歳の最年少取締役、牧野茂徳氏(平成4年入社)の抜擢だ。姉川尚史氏(60)に代わって原子力部門のトップに就く。昨年6月まで本店原子力設備管理部のグループマネージャー(課長)だったから、「3階級か4階級特進だ」(同僚社員)。
牧野氏に白羽の矢を立てたのは、社外取締役が過半数を占める7人の指名委員会である。原発立地自治体や規制当局の矢面に立つ原子力・立地本部長の「難しさ」は言うまでもない。社内には福島第一原発所長を務めた小野明氏(57)を推す声があったが、原賠・廃炉支援機構の執行役員に出たばかりで呼び戻すことができなかった。
指名委は約20人の候補者を選び、4人の社外取が中心となって各1時間の「1対1面談」を繰り返し、絞り込んでいった。過半数の指名委員が個人面談で折り紙を付けたのが牧野氏だった。ある指名委員は、牧野氏が常駐する福島第二原発に出向き、現職の原子力人財育成センター長としての仕事ぶりを確かめ、上司や部下から職場のムードや人となりを聴き取った。「新たな人財育成に懸ける熱意は目を見張るものがあった」という。
牧野氏はロンドンに3年間駐在し、欧州各国の規制当局や国際原子力機関との窓口を務めた国際派でもある。とはいえ、本店の部長経験もなく、「彗星」のごとく現れた牧野氏を知る社員はごくわずか。手腕は全く未知数だ。営業一筋で原子力に疎い小早川智明社長(53)を担いで、「1F事故が骨の髄まで身に染みている社長であってほしい」と注文をつける田中俊一原子力規制委員長(72)や、福島・新潟両県知事と、うまく折り合えるだろうか? 「年齢は関係ない。彼には情熱と推進力があるから」と、先の指名委員は太鼓判を押すけれど……。