2017年10月号 LIFE
今から30年近く前のバブル期。世の女性たちは当時大流行した洋菓子ティラミスやクリームブリュレを買い求めた。その後はベルギーワッフル、バームクーヘン、ロールケーキ、マカロンなどが人気を集めた。しかし、いつの世も消費者の嗜好の変化は早い。一定のサイクルでブームの過熱と終焉が繰り返され、淘汰される洋菓子業者も後を絶たない。
適者生存の厳しい環境が続く洋菓子業界において、審査・与信関係者の間でいま最も動向が注目されているのが「ブールミッシュ」(神奈川県川崎市)だ。噂が広まるきっかけとなったのは、「6月に支給予定だった従業員への賞与の遅配」(業界関係者)。会社側は資金繰り悪化によるものではないと強調するが、足元の業績低迷もあって取引先の警戒感は募る。
大手百貨店のデパ地下などで「BOUL‘MICH(ブールミッシュ)」のブルーの看板を見たことのある方も多いだろう。日本における「本格的フランス菓子の草分け的存在」ともいわれる同社は73年に創業された。業歴40年超の老舗洋菓子店として、東京・銀座に本店を構え、北は北海道から南は沖縄まで約130店舗を展開。主力商品のひとつ「トリュフケーキ」は、2017モンド・セレクションの最高金賞を受賞(20年連続金賞)、同じく「ガトー・ボワイヤージュ」も16年連続で金賞を受賞するなど業界内の評価も高い。
フランスやスイスでの製菓修業後、同店を開業したオーナーパティシエの吉田菊次郎氏(72)は、業界の顔ともいえる存在のひとり。2004年に仏政府から農事功労章シュヴァリエを受勲、同年には厚生労働省から「現代の名工・卓越した技能者」を受賞した。
同社ホームページには、過去の受賞歴、主な著書、業界団体の役職、社会活動などの事細かな記載が並ぶ。厚生労働省の「職場のいじめ、嫌がらせ問題に関する円卓会議」委員(11年~12年)、「安倍晋三総理大臣により、『さくらを見る会』のご招待にあずかる」(13年)、「ハッピーウーマンフェスタ」顧問就任(17年3月)など。「同会には安倍昭恵総理夫人等各界著名人が名を連ね」などと近況を綴る。
だが、肝心の業績は曲がり角を迎えており、周囲からは「そんな政界人脈や社会貢献をアピールしている場合ではない」との声が漏れ伝わる。売上高は4年前の13年6月期の70億円をピークに頭打ち状態。15年6月期、16年6月期と減収、営業赤字が続いた。直近の17年6月期も「主力の百貨店販売の不振もあり、3期連続の減収、営業赤字となった模様。全体で見て赤字店が多いのも大きな問題」(取引先関係者)。
過小資本の状態が続いており、財務内容も盤石とはいえない。日銭商売ゆえ一定の手元現金があるのは救いだが、ここにきて「20億円前後ある長短借入金について、金融機関の取引スタンスに微妙な変化が出始めた」(同)との気になる情報も。借り入れ負担が重荷となる中、近く抜本的なリストラは避けられそうにない。俳人・吉田南舟子としての顔も持ち、マルチな才能を見せる日本の仏菓子のパイオニア・吉田菊次郎氏は、どんなブームを仕掛けて苦境を乗り切ろうとしているのか。安易な値上げに走ることはさすがにないと思うが……。