2018年6月号 POLITICS
年明けに御年80歳となる伊達忠一参院議長が来夏の参院選出馬を狙っているという。当選3回で未入閣ながら、最大派閥・細田派の威光で「2階級特進」を果たし、はや2年。その際は参院自民党に「議長を誰でも出来るポストにするのなら、参院の存在感が低下する」(山本一太元沖縄北方相)との不満が噴出し、細田派幹部が「花道だから」となだめて回ったのだが。
4月に伊達氏と会った地元・北海道の衆院議員は証言する。「『出る』とは言わなかったが、言葉の端々に意欲がみなぎっていた。本人はいたって元気で、同い年の二階(俊博)幹事長より、ずっと若く見える」
異色の経歴だ。道央の芦別市出身。高卒後、衛生検査技師の資格を取得し、26歳で血液・尿検査の「札幌臨床検査センター」を創業した。道内ではこの分野の草分けで、営業所や調剤薬局を60カ所展開する。伊達氏はいまだに代表権を持つ会長だ。
政界進出は44歳で、道議を4期務めた。自民党関係者は「特技は有力者へのゴマ擂り。これだという時は金に糸目をつけず、狙ったポストを射止める。参院選候補にも、いつの間にかなっていた」と振り返る。小泉旋風下の2001年に国会の赤絨毯を踏み、いまなお一定の影響力を誇る森喜朗元首相と距離を縮め、安倍晋三首相も無碍にできない存在となる。
いかにも節操がない伊達らしい、と語り草なのが07年の選挙だ。大流行していたポケモンにあやかり「ダテチュウ」と大書したポスターを貼り巡らせた。その後も海千が跋扈する参院自民を巧みに遊泳し、政策で実績がないのに国対委員長、幹事長、そして頂点へと登り詰めた。
仮に伊達氏が4選できたとして、議長続投の芽はない。当選12回で国対政治を熟知し、野党からも信望を得る大島理森衆院議長とは訳が違う。とはいえ自民党の「73歳定年制」は選挙区に適用されない。それこそ「人生100年時代」だ。80代の参院議員がいてもいいようなものだが、そう単純ではない。
北海道選挙区は長らく改選数2で争われ、保守と革新が議席をシェアする「ぬるま湯選挙」が常態化。伊達氏もその恩恵にあずかってきた。だが16年選挙で改選数が3に増え、状況が一変。自民党も民進党も現新2人ずつを擁立し、大接戦の末、民進が2議席をさらった。
首相が総裁3選を成し得た場合、真価が問われるのは一にも二にも参院選。3分の2を割った瞬間、宿願の憲法改正は消え去り、「北海道の2議席は生命線」(首相周辺)となる。まともに選挙を戦ったことがない80歳には、ご退場願いたいのだ。
後継では、道知事4期目で来年4月に任期満了を迎える高橋はるみ氏(64)が本命視される。この15年、見るべき成果はないが、それだけに失策もなくイメージだけは良好だ。他にも自薦の道議がおり、現職が居座ろうものなら一枚岩の選挙にならない。ちなみに伊達氏の長男は、暴行事件と酒気帯び運転で2度も道議を引責辞職し、世襲は選択の埒外にある。
主要3派が牛耳る参院自民で、細田派は議長に加え橋本聖子参院会長も送り出す。説得材料にした伊達氏の花道論が虚偽となれば、竹下、岸田両派は確実にざわつく。細田派幹部は「皇室会議にまで出て満願成就だろう。英断を期待したい」と話す。