2018年6月号
連載
by 知
ハリルホジッチ前サッカー日本代表監督
「日本というお国をこんなふうな形で去ることになるとは、考えたことはございませんでした。今まで考えつく限りの最悪の悪夢の中でも、こんなことを考えたことは一度としてなかったわけです」(ヴァイッド・ハリルホジッチ前サッカー日本代表監督、4月27日、日本記者クラブの記者会見で)
任命権者はすなわち解任権者である。その人にやめろと言われれば、「はい、わかりました」と言ってやめなければいけない。
ところが日本のサッカー界では不思議なことが起きている。掟通りにやめたハリルは、その後もずっと憤慨し続け、記者会見で逐次通訳付きとはいえ1時間以上まくしたて、最近は訴訟を起こすとまで言っている。どうしてなのか。おそらく解任理由が原因だろう。
ここ数試合の成績、「永遠のライバル」である韓国戦での不甲斐ない戦いを挙げるだけではクビにできないと考えたのだろうか。田嶋幸三・日本サッカー協会会長は「コミュニケーション不足」を一番の理由とした。
誰もが認識できる戦績ではなく、外部からうかがい知れない、パーソナリティーにかかわるものを理由として持ち出され、広められた。次の就職口を探さなければいけない人間にはたまらない。ハリルでなくても怒るだろう。
もう一つ不思議なのが、田嶋会長の表情だ。協会会長の実質的な解任権を持っている人物からハリルをクビにしろといわれたのか、別のルートがあったのか。どう見ても、自ら悩み抜いて「苦渋の決断」をした人間の顔に見えない。
解任宣告時のハリルの様子を「びっくりしていた」と表現し、ハリルの記者会見後には「それで彼の気が晴れるのなら」と発言した。一度は代表を任せた相手に敬意を払わねばという気持ちはないのだろうか。クビを切られるならぜひ立派な人物に、と願いたくなる。