大阪カジノは「軟弱粘土上の楼閣」

大阪北部地震が改めて問う、埋め立て地「夢洲」の耐震性。知事は「逆に強固」と言うが。

2018年8月号 POLITICS

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大阪北部地震で倒壊した大阪府茨木市の寺(6月24日撮影)

Photo:Jiji Press

「ドーンと突き上げるような揺れが来て間もなく本棚が倒れました」。6月中旬の朝に起きたM6弱の大阪北部地震。高槻市内にある老人ホームの職員は地震が起きた時の様子をそう話す。だが、地震が突き上げたのは大阪のヤワな地盤だけではなかった。IRリゾート誘致で国内最有力候補だった大阪の地位も揺さぶった。何しろ、カジノ実施法案をなんとしても通過させるため、政府が国会の会期延長を決めた直後の地震。あまりにもタイミングが悪かった。

6月25日、地震後の会見で松井一郎大阪府知事は「今回の地震と南海トラフが連動しているのは科学的に根拠がない。津波予想高を上回っている夢洲(ゆめしま)の地盤は逆に南海トラフに強固なエリアである」と語ったが、果たしてそうなのだろうか。

地震直後、ある与党議員は大阪・此花区にあるIR&万博候補地「夢洲」の被害状況について大阪府に問い合わせた。夢洲は昭和の高度成長期、湾岸開発をにらんで造成された埋立地で、地盤が強いとはみられていない。関係者によると、幸い夢洲は震度5弱で、液状化現象などはみられていないという。だが、気象庁の幹部は地震直後の会見でこう語った。「マグニチュード(M)6・1はどこでも発生しうる大きさ。全国どこでも発生しない所はないと思うべきだ」

大阪北部地震がIR誘致に対する不安をかき立てたことは間違いないだろう。別の与党議員もこう話す。「夢洲の開催で本当に大丈夫なのかという懸念は隠しきれないが、IRや万博誘致を進めたい政府や大阪府に遠慮して誰も声を上げない。これではかえって海外の観光客に対して不誠実ではないか」

「上町断層帯」が心配

府民には心理的な影響もある。IR誘致に反対する理由の筆頭は「ギャンブル依存症」への不安だった。政府はこうした声に耳を傾けるためにギャンブル依存症対策基本法を成立させ、カジノ実施法案についても7月、国会で成立させる見通しだ。ところが、地震についてはいくら法律をつくっても対策の取りようがなく、発生の懸念が消えることは永遠にない。

2011年の東日本大震災では夢洲のすぐ隣、大阪府咲洲(さきしま)庁舎がある「咲洲」(旧大阪ワールドトレードセンター、WTCビル)は震度3の揺れだったにもかかわらず、壁面のパネルが剥がれたり、庁舎のエレベーターが故障して中に人が閉じ込められたりした。

今回の地震がさらなる巨大地震を誘発する可能性は当然ある。専門家の間では、大阪北部地震は「活断層型の地震」ということで見方はほぼ一致しているが、どの断層帯で起きた地震かについて意見は割れている。気象庁は、神戸市から大阪府の高槻市に至る「有馬─高槻断層帯」の近くで起きたと発表したが、東北大の遠田(とおだ)晋次教授は大阪府の豊中市から岸和田市を縦に横断する「上町断層帯が関係した可能性がある」としている。政府の地震調査研究推進本部はここで起きる地震の最大規模をM7・5として、今後30年に地震が発生する可能性も高いとしてきたという。

上町断層帯で想定される最大規模の地震が起きれば、夢洲の震度は5弱で済まないだろう。IRは滞在型リゾートであるため、人が滞留し、災害ではデメリットになる。夢洲の地下には分厚く軟弱な粘土層があり、地盤の液状化は起こりにくいが、阪神・淡路大震災では粘土層の上で多くの家屋が崩壊した。傍目には豪華で立派な建物でもそれを支える地盤がゆるい埋立地では、砂上の楼閣となりうる。

府「梅田浸水」市「夢洲安全」

何より懸念されるのが南海トラフ地震だ。フィリピンプレートが本島の下部に滑り込んでできる歪みが原因で起きる南海トラフ地震は想定される規模が違う。マグニチュードは最大9・1。津波のエネルギーは極めて大きく、大阪湾岸の小島、夢洲はあっさり飲み込まれるだろう。

13年に大阪府が公表した南海トラフ地震の浸水想定では、西淀川の淀川河口で最大津波水位は5・2m、夢洲のある此花区や港区では5mなど被害は甚大だ。最大の繁華街、大阪・梅田もどっぷり水に浸かる。

大阪市が作成した資料「夢洲まちづくり構想検討会」では、「埋立地の計画地盤の高さは一定の高さに対処されており、津波に対し安全」としているが、田結庄(たいのしよう)良昭・神戸大学名誉教授は書籍で「大阪府の満潮位はOP(大阪湾海抜)で2・2m、津波の高さは3・2mで津波水位は5・4m。夢洲の計画地盤の高さは9・1mと厚盛りしており、3・7mの余裕があるとしているが、これをどう見るか」「大阪府の津波浸水想定では、夢洲は浸水を想定しているが、市の『浸水しない』という説明と矛盾する」と疑問を示す。

そもそも事前の津波予想や浸水予想が全くアテにならないのは東日本大震災を振り返ればすぐわかることだ。大きな津波に耐えられるはずだった大防潮堤もいともたやすく崩壊した。

大阪では、夢洲へのIRや万博の誘致そのものを「バブルの後始末」「たび重なる開発失敗の付け回し」と見る向きが強い。夢洲や舞洲、咲洲がある大阪南港の埋め立ては1958年に始まった。夢洲の埋め立ては77年に始まり、産業廃棄物や家庭ごみなど浚渫(しゆんせつ)土砂などを造成に活用したという。だが、80年代のバブル真っ盛りの中で浮上した、新都心「テクノポート大阪」を3島に作る構想はバブル崩壊のあおりを受けて、あっけなく頓挫した。

当初計画で建設されたのが、前述の「WTCビル」とアジア太平洋トレードセンター(ATCビル)だ。2棟合わせて2600億円にも上る投資だったが、2棟のビルとも経営は難航。前述したWTCは、大阪市が40年間にわたり、約1300億円もの家賃を負担することで救済したため、行政の「お荷物」と化し、ATCは入居企業の相次ぐ退出で経営破綻した。

バブル崩壊後の95年には、今度は2008夏季五輪の招致の話が持ち上がり、舞洲をメイン会場、夢洲を選手村として活用する計画がつくられたが、招致に失敗。50億円の招致費用とともに計画も藻屑と消えた。その後、夢洲は人も住まず、コンテナターミナルとして一部が利用されてきただけだ。政府はIR&万博誘致のリスクを国民にきちんと説明するべきだ。

   

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