自民党衆議院議員 石破 茂 氏

地方の所得を増やす!持続可能な政策で勝負

2018年9月号 POLITICS [リーダーに聞く!]

  • はてなブックマークに追加
石破 茂 氏

石破 茂 氏(Shigeru Ishiba)

自民党衆議院議員

1957年生まれ。慶大法卒。三井銀行を経て86年衆院初当選(鳥取1区・通算11回)。防衛庁長官、防衛相、農水相、内閣府特命担当相(地方創生)、自民党政調会長、幹事長などを歴任。父は建設事務次官、鳥取県知事、参院議員、自治相を歴任した故石破二朗氏。新著『政策至上主義』(新潮新書)が話題に。

――「この国には解決策が必要だ」と訴える『政策至上主義』を刊行しました。

石破 党もメディアも「政策」ではなく「政局」中心に動いている。本来、市場価値があるのは政策の正しさであり、より優れた政策を実現するために政党はあるのです。冷戦も、高度経済成長も終わり、遂に人口が急減し始めた。中長期の「国家ビジョン」が問われています。

――「果実の分配」ではなく「不利益の分配」ともいえる政策についても、正面から語っていくと訴えていますね。

石破 日本の根本的な問題は何か。1960年と2015年の統計を比べると明白になります。人口は9430万人から1億2709万人と1.35倍、このうち65歳以上の人口が540万人から3347万人の6.2倍となり、全人口に占める割合は5.7%から26.3%に増えた。一方、この間の国の予算は1.6兆円から96.3兆円になり、社会保障制度の支出は0.7兆円から114・9兆円に増大。つまり、この半世紀で国家予算は60倍に対し、社会保障の支出は160倍になった。私は「持続可能性の高いプランにしましょう」と言いたいのです。

いつまでもカンフル剤に頼ることなく、持続的に発展する経済を実現するため、我が国の経済・財政が抱える根本的な問題と向き合い、処方箋を考えなければ――。政府が有権者に対して「苦い現実」を語ることなく、大向こう受けを狙い続けた結果が現在なのですから。

どれだけ地方の力を伸ばせるか

――「言うは易く行うは難し」ですね。

石破 33年前の夏、渡辺美智雄先生が研修会で「何のために国会議員になりたいのか。カネのためか、先生と呼ばれたいからか、いい勲章を貰いたいからか、そんな奴はここから去れ。勇気と真心を持って真実を語る。それ以外に政治家の仕事はない」と説かれたことが、私の政治家としての原点。責務を果たしたい。

――大胆な金融緩和によって円安になり、企業収益が増え、景気は緩やかに拡大しているというが、実感がありません。

石破 全体の売り上げが伸びず、賃金が上がらないから当然です。構造的な問題を抱えているから「金融緩和」や「財政出動」だけでは解決策にならない。そもそも今日の日本のように人口が減ることを経済学の教科書は想定していなかった。これまでの常識が通用しない社会が到来したのだから、従来の常識を超えた対策を考えなければ活路は開けません。

どれだけ地方の力を伸ばせるか――。これが、私が考える解決策です。「地方の時代」などと口先では言うけれど、多くの政治家やマスコミが注目するのは、いまだに大企業の動向です。しかし、日本のGDPの7割、雇用の8割を占めているのは地方の中小零細企業です。その地方が変わらずに、日本が変わるはずがない。地域差はありますが、総じて地方は子育てがしやすく、出生率が高いところが多い。そこに十分な雇用と所得があれば、人口が東京に流出することなく、むしろ増えていき、地方で豊かな暮らしを営むことができる。そうした環境を作るため、働き方の見直しや新しい技術の活用を通じて、伸びしろの大きい地方経済を支える農林水産業、建設業、サービス業などの生産性を大幅に高め、地方の所得を増やしていきます。地方創生担当大臣を務め、全国の多くの成功例や取り組みを見れば見るほど、ここにこそ日本の活路があると確信しました。

一歩でも近づきたい「総理像」

「正直、公正」を旗印に総理の座へ3度目の挑戦!(8月10日の出馬会見)

写真/堀田喬

――「正直、公正」を旗印に掲げ、総裁選に3度目の挑戦。憧れの政治家は?

石破 私にとって田中角栄先生は「神」であり、人間は神になれませんから、憧れ以上の神(笑)。父の遺言で葬儀委員長を引き受けて下さった御礼に「目白御殿」に参上したら「まぁまぁまぁ君ね、すごい葬式だったね。さあ、明日から名刺を持って3千人の会葬者を回れ。選挙の第一歩は会葬御礼だ」とおっしゃるんです。24歳の私は度肝を抜かれてしまった。挙句の果てが、この有り様です。神から言われなかったら、こんな仕事をやってませんもん(笑)。その2年後に三井銀行を辞め、29歳の時に初当選。当時、最年少の国会議員でした。

――目標とする総理像はありますか?

石破 少しでも近づきたい、あやかりたいと思うのは竹下登先生です。今日ほど社会保障制度の維持が困難と思われていない時代に、明らかに選挙に不利な消費税の導入を実行された。「アンチ小泉」の急先鋒だった私を防衛庁長官に抜擢して下さった小泉純一郎先生も神っぽかった。「オレに尽くせ」なんてことは一切なく、「今はお前の出番だ。有事法制、イラク派遣、ミサイル防衛、やれ!」と命じられた。防衛相としてお仕えした福田康夫先生、農水相としてお仕えした麻生太郎先生からも薫陶を受けました。

――父上は戦前の内務官僚でしたね。

石破 私はファザコンみたいなところがあって、一生かかっても超えられない父を持ったことを幸せだと思っています。自分が立派なものだと思い上がる心配がないという意味でも(笑)。彼は父と言うより鳥取県知事であり自治大臣であり、とても恐い存在でしたから。

子どもの頃、父が手を引いて近くの山に登ってくれました。私は楽しかったけれど、父は母に「茂を2度と連れて歩かない」と言ったそうです。すれ違う人が「知事さん、知事さん」と頭を下げる。「そんな姿を、子どもに見せてはならん」と。また、知事に当選した時、一族郎党を集めて「わしが知事になったからには地元のことは後回し、お前たちの出世はないと思え」と言い渡したそうです。公私を峻別する古き良き時代の内務官僚だったと思います。

――不祥事が後を絶たない霞が関のモラルダウンをどうご覧になりますか。

石破 すべての公務員は全体の奉仕者であって、時の権力者に奉仕するものであってはならない。私が防衛相や農水相の時には副官や秘書官には「大臣、それは違います!」と言ってくれる人を、あえてお願いするようにしました。

――安倍総理を守ろうとして財務官僚は決裁文書を改ざんした。先の党首討論で安倍総理は「良心の呵責を感じないか」と責められても、どこ吹く風でした。

石破 時の権力者が「ごまかし」と「責任転嫁」と「圧力」を押し通したら、政治は成り立たなくなる。行政府の長たる総理が、国会で「私や妻が少しでも関係していたら総理も国会議員も辞める」と明言したから、「大変だぁ!」となって関連資料は破棄され、決裁文書は書き換えられたのではないかと思われている。佐川(宣寿)さんら財務官僚が自らの保身のためにやったことじゃない。「法律に反したことはしていない」ということであれば、疑念を払拭するようていねいな説明が求められるでしょう。

トランプ大統領とゴルフはしない

――結果、近畿財務局の職員が命を絶った。霞が関でアンケートを取ったら、十中八九の官僚は「安倍総理は早く代わってほしい」と答えると思います。

石破 適材適所と主張して佐川さんを国税庁長官に昇進させたはずが、記者会見を拒み辞任に追い込まれると「だから佐川が悪いんだ」と一転する。内閣人事局の運用の仕方によっては、出世したかったら言うことを聞けと圧力がかかっているととられかねない。

働き方改革でも同じことです。「高度プロ制度」は仕事が終わらなかったら、いくら残業しても残業代なしですから、過労死の懸念にきちんと応えなければならない。であれば過労死遺族の会が安倍総理に会わせてと、雨の中で官邸前に座り込んでおられるところに、何か接触することはできなかっただろうか。

思い起こせば、竹下総理は立場の違いを超えて、皆さんに喜んでもらおうと心を砕く方でした。わずかな時間でも面談し、「すまん、できん」と断るけれど、「本当によく来てくれた。私と写真でも撮っていきますか」と声をかけ、「引き留めて済まなかった」と言って帰した。実に思いやりのある方でした。

――トランプやプーチンと首脳外交を積み重ねた安倍さんは、余人をもって代えがたい雰囲気を醸し出しています。石破さんはトランプとゴルフをしますか。

石破 しないと思います。自国の利益を犠牲にして成り立つ外交はない。相手の国情を理解しつつ、自らの国益を主張し、譲歩を引き出すのが外交だと思っています。トランプさんと個人的に親しくなり、ゴルフをしたり、私邸に招かれたりすることも、国益につながるのでしょうが、外交は社交だけでもだめなのでしょう。一筋縄ではいきません。

私の外交の原点は16年前に防衛庁長官を務めた時でした。小泉総理の靖国参拝により対中関係は険悪化した。「有事法制」「ミサイル防衛」「イラク派遣」に反対する温家宝首相とサシで2時間議論したが、互いに一歩も譲りませんでした。外交とは相手に媚びる必要はなく、日本の国益をきちんと語れば、初対面であっても耳を傾けてくれるものだと思いました。欧州各国の首脳はトランプ大統領に媚びない。いま日本だけでなく、世界中で熱波や洪水などの異常気象が頻発しており、その原因は温暖化ガスの増加と見られるのに「『パリ協定』を離脱するなんて絶対に許せない」ということです。長いものに巻かれるのではなく、米朝関係についても、日本の国益に即して言うべきことは言わねばなりません。

(インタビュアー 本誌発行人 宮嶋巌)

   

  • はてなブックマークに追加