2018年10月号
LIFE
by 小野悠史(フリー記者)
中野区が所有するビル「温暖化対策推進オフィス」
ビルに入居したら、水道から異臭がして水を飲んだ従業員が体調不良に。大家はろくに対応してくれないばかりか、暴言を吐いてくる。しかも、その大家が本来なら地域住民に規範を示すべきお役所自身……。
そんな耳を疑うトラブルが、東京都中野区で展開されている。舞台となったのは同区が所有するビル「中野区温暖化対策推進オフィス」。このビルを今年3月まで5年間、月200万円で賃借していた介護事業者の千雅(東京)は怒り心頭だ。「入居当初、水道水は泥水のように濁っていた。清掃で濁りはよくなったものの臭いは残り、水質検査を行った業者には、『いくら塩素を入れても飛んでしまう。生水は絶対に飲まないように』と言われた」という。
異臭の原因は貯水槽内のカビや錆。だが、区は「予算が取れない」と修繕を拒絶した。千雅は水道水が原因でビル内でのデイサービス開業を断念、フロアを転貸予定だった飲食業者も撤退し、内装工事費が無駄になった。今年7月、同社は中野区に約1億3千万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。田中千代美代表によれば、入居中は他にも、雨漏りや天井の剥落、区職員によるバルブ閉め忘れで約180万円の水道代が請求されるなどトラブルが続発、区の担当部長から「事務能力がない」などとパワハラまがいの言動も受けた。賠償金は原資が税金であることに鑑み、訴訟費用を控除し中野区に寄付の予定という。
ビルは入居事業者にはやさしくなかった
問題のビルは、もともと環境及びリサイクルに関する学習、交流などを目的に1998年に建築されたもので、旧名称を環境リサイクルプラザという。地上6階、地下2階、延床面積2千㎡超の建物で、開設には建築費など約33億円が投じられ、屋上にはソーラーシステムや小型の風力発電機、雨水利用のための雨水タンクなどが付設されている。しかし建築に詳しい不動産業者が「屋上や外壁にパネルなどを取り付けたビルは維持管理に金がかかる」と指摘するとおり、このビルの維持管理経費は年間3千万円規模に上った。エコ機能は早々に使えなくなり、立地が不便で区民の利用も少なく、認知度はさっぱり。「税金の無駄遣い」と、区議会でもたびたびやり玉にあがった。
そこで区は2010年12月に方針転換。公募でビルを民間に貸し出し、支払われる賃料を基金に蓄え、環境問題対策に生かすことにした。だが、ビルを利用していたNPOを追い出すなどの急な決定を訝しむ声もあったという。「NPOに近い人物が10年5月の区長選に立候補しており、当時の田中大輔区長による報復なのではとも噂された」(中野区政通)。
公募の最初の入札者とは折り合いがつかず、翌年の2回目の公募に応じたのが千雅だった。空きビルだった間に劣化したのか、それとも当初から欠陥があったのか。中野区は賃貸中も毎月100万程度の管理費を計上、一時はいっそのこと、とばかり売却する計画もあった。現在は来年4月から認可保育園として使うため内装工事中だ。水道は地下水道管から直接通すことになり、悪臭は心配ないという。
中野区環境部に経緯を質すと「係争中のため答えられない」との答え。典型的なハコモノの大迷走、こんなお粗末な行政を放置して区民は大丈夫か。