辞任必至「竹田恒和」の正体

慶応同窓の電通元専務、高橋治之の丸抱えだった旧皇族出の人を官邸は見限った。はや後任が取り沙汰されて。

2019年3月号 DEEP

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東京五輪招致の買収疑惑で予審送りとなり、一方的な7分間会見を行った竹田恒和JOC会長

Photo:AFP=Jiji

旧皇族出の据わりの良さだけで8期18年も日本オリンピック委員会(JOC)会長を務めるが、決断せずリスクを取らず、華々しい成功はない代わり失敗もない――。

JOC関係者の竹田恒和評をまとめれば、こうした可もなく不可もない人物像が伝わってくる。要は「お任せの人」だが、それが通用しなかったのが仏司法当局だった。

東京2020五輪招致委員会の理事長だった竹田は、影響力のあるIOC委員で国際陸上競技連盟(IAAF)前会長のラミーヌ・ディアクに対し贈賄工作をした日本の責任者として、12月10日にパリ大審院が予審手続きを取ったのだ。

ル・モンドのスクープ第一報を受けた東京五輪組織委の森喜朗会長は、日ごろは竹田と同席しても目さえ合わせないほど犬猿の仲なのに、言下に携帯で「竹田を守れ」と下知したという。永田町では美談だが、竹田がパリで被告席に立たされたら、東京五輪に前代未聞の汚点がつくからだろう。

竹田に贈賄工作をしたとの「自覚」はない。一方的に声明文を読み上げた1月15日の7分間会見で顰蹙を買ったのは、「俺は知らない」という“自負”からだろう。「知らない」のではない、耳を塞いでいるのだ。それが旧皇族出の狡猾なところである。

「俺は神輿役」といいとこ取り

問題のシンガポールのブラック・タイディングス(BT)社の送金についても、イアン・タン代表が32歳(当時)で、海千山千のIOC委員たちを籠絡できるような人脈と情報力があったとは思えないのに、「有能なコンサルタント」とシラを切る。実はディアクの息子と親しく、1回目の送金は、先に購入した高級時計代金に充てられIOC委員にばらまかれた模様だが、ツジツマが合わずとも、いざこざは部下に押しつけ、「俺は神輿役」といいとこ取りである。

彼を甘やかしたのが、電通スポーツ部門の総司令塔で元専務の高橋治之だ。実弟はイ・アイ・イの総帥として日本長期信用銀行を破綻に追い込み、1995年に背任事件で逮捕された高橋治則(故人)である。

高橋と竹田を結びつけたのが慶応義塾人脈である。竹田は竹田宮恒徳王の三男として47年に生まれ、明治天皇の曽孫にあたるが、幼稚舎からエスカレートで慶応大学に進んだ。次兄に三つ年上の恒治がいて、これが高橋の同級生だった。「兄の友人で先輩」の高橋は、だから気の置けない席では竹田を「カズ」と呼び捨てにする。

幼稚舎の頃から乗馬を始めた竹田は、72年ミュンヘン、76年モントリオールと2度の五輪で馬術代表となって出場している。76年モントリオールにクレー選手として出場した麻生太郎財務相とは「オリンピアンズ」仲間ということになる。

しかし広壮な旧竹田宮邸がプリンスホテルに売却されたように、戦後の旧皇族は台所が火の車。そこで74年、竹田は東京・小平市で精神病院を営む松見家の次女と結婚、「道楽スポーツ」の馬術に没頭できた。

「松見病院を率いていたのは、竹田さんの義母にあたるイクさん。有名な女傑で不動産事業にも進出、一時は相当に羽振りが良く、三越の外商がひとりイクさん専従でいたほど。元麻布には豪邸を建ててやり、竹田夫妻を援助し、何不自由ない暮らしをさせていました」(松見家関係者)

おかげで引退してからも指導者となって慶応馬術部のコーチ・監督を務める一方、84年ロサンゼルス五輪以降は日本選手団の監督、本部役員などで五輪に関わった。

ただビジネス面では順調といえなかった。79年、旅行代理店のエルティーケー(LTK)ライゼビューロジャパン(現せとうちLTKトラベル)の設立に参加、代表に就任するが、個人的人脈で細々と法人顧客を世話する状態が続いた。馬術の縁で理事長を務めた乗馬クラブのロイヤルホースライディングクラブ(栃木県)は、豪奢な調度に湯水の如くカネを遣った挙句、01年10月、親会社の倒産に連鎖して破綻した。

松見家にもバブル崩壊の波が押し寄せる。資産は次々に競売にかけられ、病院本体も苦境に陥った。渦中に竹田夫妻は別居、03年には離婚が成立、その後、竹田はLTK社員でスポーツ界重鎮の娘と再婚した。

当時、公私とも窮地の竹田を高橋が支えた。01年9月、JOC会長の八木祐四郎が死去。後任に竹田を推したのが高橋だった。

「後任を竹田さんに決めたのはJOC名誉会長の堤(義明)さんですが、それまで無給で名誉職だった会長ポストを1500万円の有給職にしようと奔走したのは高橋さん。『カズが大変なんだから仕方ないだろ』と言っていたそうで、LTKにも電通スポーツ局の海外出張の仕事を回してカネを落としていました」(JOC関係者)

電通スポーツ利権のお先棒担ぎ

そのころの高橋は電通のスポーツ利権を牛耳り、飛ぶ鳥を落とす勢い。執行役員、常務、専務と出世街道を驀進した。竹田は電通丸抱えのJOC会長として、そのスポーツ利権のお先棒を担いだ。高橋は汐留と仙石山の高級ステーキレストラン「そらしお」のオーナーだが、常連の竹田と優雅にグラスを傾ける光景がよく見られた。

だが、本誌の執拗な追及と東京五輪買収疑惑で、高橋は表に立つことがなくなった。カネに汚いディアク父子を手なずけるのは本来、“汚れ役”の高橋の役目なのだが、JOCの“お手盛り”調査報告書でも、フランスに要請された捜査共助報告書でも、どこにも彼の名は記されていない。

しかし、難題は「お任せ」で鉄面皮を通す竹田流はもう限界だろう。「説明責任を果たすべきだ」との官房長官コメントは、すでに首相官邸に見限られたことを意味する。新天皇即位の年に明治天皇の曽孫のスキャンダルなど願い下げなのだ。

早くも6月のJOC会長改選前に竹田が辞意を表明するとの観測から、後任が取り沙汰され始めた。山下泰裕・全日本柔道連盟会長や麻生太郎、橋本聖子の名が挙がる。

フランス国歌ラ・マルセイエーズに次ぐ第二の革命歌サ・イラは歌詞が残酷だ。

Ah! ça ira, ça ira, ça ira!

Les aristocrates à la lanterne!

意味は「ああ、それ、それ、それ! 貴族どもを街灯に吊るせ」。フランスはそういう国だ。殿下、お覚悟を。(敬称略)

   

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