超聴診器で遠隔医療の道開く
2019年5月号
BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]
1982年生まれ、熊本県出身36歳。熊本大学医学部卒。熊本大学病院や済生会熊本病院に循環器内科医として勤務。2015年11月にAMIを設立。
――今までにない聴診器です。
小川 心臓の診断をアシストする機能と遠隔医療ができる機能が付いた「超聴診器」を開発しました。対象疾患の一つ大動脈弁狭窄症は胸が痛いとか足がむくむなどの症状が出たら平均3年で死に至るとも言われています。全国に100万人も患者がいますが、カテーテルで人工弁を留置する方法が保険適用となるなど治療の幅が広がり、適時に治療すれば身体に負担をかけずに治せるようになってきました。そこで、データでもってより正確に、医師が離れた場所にいても胸に当ててくれさえすれば見つけられるようにと思い開発しました。
――そもそものきっかけは。
小川 循環器内科医としてドクターヘリやドクターカーで出動した際に、離れたところと診療データをやりとりすることの重要性を痛感しました。聴診器は当てるだけで受診者を安心させる器具であり、エコーなどより低コストで診断できます。そこで聴診音をビデオチャットシステムで送れればと考えたのですが、やってみると生で聞いた音と異なります。通信やスピーカーから出力する過程で70㎐未満の低音が、診断にはとても重要なのに雑音としてカットされるのです。そこで、音の周波数と音圧と時間データを3次元スペクトログラム画像に表し、遠く離れたところとやりとりできる仕組みにしました。目と耳で確認するわけです。こうすれば、環境やコンディションに左右される医師の耳頼みではなく、定量的な画像データでもって患者をスクリーニングできます。2016年の熊本地震の時、ドクターカーで医師が到達できていない避難所を走り回ったのですが、全国各地の医師から現場には行けないけど手伝えることがあれば何でも言ってくれとのお申し出がありました。遠隔医療ツールはこうした災害時医療で力を発揮すると思います。
――次の展開は。
小川 自身の健康管理は自宅や職場で行う、そんな世界を実現したいです。脳ドックや内視鏡を使う健診は病院でしか受けられませんが、例えばメタボチェックは、腹囲は自分で測れますし採血も指先で簡単にできます。聴診を超聴診器でやれば特定健診の必須項目が全部自宅でできます。今の法律は遠隔での健診を想定していないので健診前の健康寿命増進サービスの提供という形になりますが、医者がいないか月に数回しか来ない離島や僻地から進めたいと考えています。長期的には「クラウド総合病院」ができればと思っています。実際は全国に散らばる専門医がクラウド上に集団でいて離島や僻地の人がいつでも引き出せる仕組みです。これも災害時医療で役立つと思います。
(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)